【「本屋大賞2018」候補作紹介】『崩れる脳を抱きしめて』――愛する女性の真実を追う恋愛×医療ミステリー

崩れる脳を抱きしめて
『崩れる脳を抱きしめて』
知念 実希人
実業之日本社
1,320円(税込)
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 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2018」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは知念実希人著『崩れる脳を抱きしめて』です。

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 一般人が知らない医療現場の実情はもちろん、手に汗握る緊迫感と登場人物たちの思惑で読者を惹きつける医療系ミステリー小説。そうした体裁をとりながらも、初々しいラブストーリーの要素を併せ持つことで、極上のエンタメ小説に仕上がっています。

 研修医として広島県から神奈川県の療養型病院で配属された碓氷蒼馬(うすいそうま)。借金を抱えた父親が愛人と蒸発し、母親が借金を返しながら必死に働き女手一つで育てられた過去がありました。自身も奨学金返済のために多額の借金を抱えています。彼は金に執着し、稼ぐためにアメリカで脳外科医になることを夢見ていました。

 そんな矢先、悪性脳腫瘍(グリオブラストーマ)と診断され、手術不可能とされた弓狩環(ゆがりたまき)と出会うことになります。28歳の若さにして頭に「爆弾」を抱え、残された時間は短い弓狩。祖父から莫大な遺産を受け継ぎ、人生の最期に贅沢することを決めた彼女は、「ダイヤの鳥籠」と称する病院の高級な一室で療養し、頑なに外出を拒んでいました。

 生い立ちや環境も対照的ですが、人生観や恋愛観などを語り合ううちに次第に心を通わしていく2人。ある時、弓狩が自身の遺産で碓氷の借金を支払うと言い出したことで、碓氷のプライドを傷つけて関係が崩れかけます。弓狩と同じ病を抱える朝霧由(あさぎりゆう)が仲裁に入ることで、お金を持ったまま死にゆく運命の弓狩ができる「唯一のお礼」であり、碓氷の呪縛を解き放ってあげたかった真意を知ることになります。

 外に出られない弓狩、過去と金に執着する碓氷。この一件から、互いがその"縛り"を意識し合い解決に導こうと努力します。特に弓狩が自らのお金に頼らずに、ある方法で碓氷の"縛り"を解き放つシーンは必読です。

 碓氷は実習を終えて広島への帰り際、弓狩に想いを告白しようと試みますが、弓狩はこれまでの態度とは一転。「私は幻なの」と意表を突く言葉を口にし、「さようなら、ウスイ先生。本当に......ありがとう」と別れを告げます。

 広島に戻った碓氷は諦めきれず彼女のもとを訪れますが......。そこで待ち受けていた衝撃の事実とは? そして彼女は本当に「幻」だったのか? 愛する女性の真実を追い求める碓氷の戦いが幕を開けます。最後の最後で起こるどんでん返しに驚愕すること間違いなしです!

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