今の時代に茶道を学ぶ意味

撮影:亀村俊二
2015年6月から2017年12月まで2年半かけて行われた、藪内家の家元襲名披露茶事。『NHK趣味どきっ!茶の湯 藪内家 茶の湯五〇〇年の歴史を味わう』では、新たに家元に就任した藪内 紹智(やぶのうち・じょうち)さんが、「古儀茶道」と呼ばれる藪内家の歴史や伝統を改めて紹介します。「堅苦しく考えすぎず、自然体でおいしいお茶を楽しんでほしい」と話す藪内さんに、今、茶道を学ぶ意味とは何かを伺いました。

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今日、伝統文化の世界はいずれも人口減少が続き、苦境に立たされています。茶の湯は「茶を喫する」という生活に根ざした文化であり、そこから芸術性・文化性が昇華したものだと考えます。しかし、茶の湯のベースである日本古来の建築、つまり畳の部屋は減る一方で、茶道を学んだからといって実生活にそれが生かせるかというと難しい部分があります。では現代において茶道を学ぶ意味とはどこにあるのでしょう。
茶会ではさまざまな道具を組み合わせます。他にも茶室や露地などもあり、さまざまな知識が必要だと感じています。それゆえ、皆さんが茶道に興味を持ち始めるきっかけもさまざまです。私は若宗匠時代からカルチャーセンターの茶道講座の講師を務めています。いろいろな職種や生活背景を持つ方々が茶道を学びたいという共通の思いで集うその空間は、私にいろいろな刺激を与えてくれます。それぞれの方が茶道を始めるきっかけも十人十色です。
「おいしい和菓子と、おいしいお茶がいただけそう」という方もいます。和菓子も季節でいろいろなお菓子がありますし、抹茶も渋みの強いものや香り高いものなどがあります。大工さんが茶室の勉強のために、庭師の方が茶の庭の勉強に、また陶芸好きの方、書の好きな方など、さまざまな理由で始める人たちがいて、茶道というのは大変間口の広い芸道だと常々思っています。
しかし、このような方々が興味を持ち始めた分野だけ勉強しても、事の本質はつかめません。例えば茶室を本当に理解しようとすれば、点前と茶会の順序を理解しないとわからないことがたくさんあります。お菓子もそれぞれに銘がついています。茶(ちゃしゃく)や茶碗にも銘がついているものがあり、その銘は、古い和歌や古典の物語の一節から採られていて、その内容が理解できないと本当の面白さはわかりません。茶の湯は日本の歴史・文化の中では遅れて成立した芸道です。仏教や神道であり、和歌であり、能楽であり、それら茶の湯以前に成立した文化を内包しています。つまり茶道を習うというのは、日本の文化全体を理解することと同じであろうと思うのです。そこに茶道を学ぶ一つの意味があるのかもしれません。
しかし、当然ながら最初からすべてがわかるわけではありませんし、また何か明確な目的を持ってから稽古を始めなくてはいけないということはないと思います。私は常々お稽古を始められる方に「まずお茶とお菓子をおいしくいただきましょう」と呼びかけています。その場に慣れたなら、器・書・釜・菓子など自身の関心が芽生えるものが一つは出てくるものです。そこから先はさらに深遠な日本の文化が待っています。
稽古場を訪れたなら、日常に身を置く自分をひととき忘れ、まずおいしくお菓子をいただき、茶を喫する。肩肘を張る必要はありません。さあ、自然体でおいしいお茶を楽しみましょう。
■『NHK趣味どきっ!茶の湯 藪内家 茶の湯五〇〇年の歴史を味わう』より

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茶の湯 藪内家 茶の湯五〇〇年の歴史を味わう―家元襲名披露茶事に学ぶ (趣味どきっ!)
『茶の湯 藪内家 茶の湯五〇〇年の歴史を味わう―家元襲名披露茶事に学ぶ (趣味どきっ!)』
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