橋本崇載八段、あの“二歩”の対局前に見せていたいつもと違う顔

左/行方尚史八段 右/橋本崇載八段 写真:河井邦彦
橋本崇載(はしもと・たかのり)八段と行方尚史(なめかた・ひさし)八段が戦った第64回NHK杯・準決勝第2局は、橋本八段による二歩により終局した。この結末はテレビや新聞、インターネットで大きく報じられ、将棋ファンのみならず多くの人の目に触れることとなった。観戦記者の松本哲平(まつもと・てっぺい)さんは、対局当日の橋本八段の様子がいつもとは違うことに気づいていた。

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■アツいカード

控え室に入ると、解説者の木村(一基)八段に「どうぞ」とある席を示された。腰を下ろすと、右には橋本、左には行方。まるで立会人…と思ったのもつかの間、ただならぬ雰囲気に体が固まる。
二人は橋本が三段のころからのつきあいで、「よく将棋を指し、よく飲みに行った」と行方。それだけに強く意識しあう間柄でもある。1月の公式戦で橋本に敗れ「悶絶(もんぜつ)した」という行方は、「借りを返そうと思っていた」。橋本も「このカードは気合いが入る」。私の前では、見えない火花が散っていたに違いない。

■いつもと違うハッシー

対局前にお楽しみの時間がやって来た。毎回話題に事欠かない橋本へのインタビューである。今回は何が起こるのか、期待を胸にスタジオへ。だが、聞こえてきたのは意外な言葉だった。
「いつもこのインタビューで何を言おうか悩んでいるんですが、今日は用意する時間がありませんで…」
最後に「決まった」とつぶやくなど随所にハッシーらしさを出してはいたが、内容はこれまでに比べれば驚くほど普通である。木村八段の「誰かさんのモノマネが見られるかと楽しみにしていたんですが」というコメントにうなずく。
しかしあれほどサービス精神旺盛な橋本が、時間がないことを理由に用意を怠るものだろうか。今回はあえて芸を封印して、正面から質問に答えたように思えた。木村八段の「意気込みを感じた」という感想と近い。
ちなみにこのインタビューは、1回NGを出しての撮り直し。橋本は「調子が出ない」とぼやいてスタジオを後にした。ふだん見せない緊張がにじみ出たような姿が妙に記憶に残っている。
※まさかの結末で終わる92手の攻防の棋譜はテキストに掲載しています。
■『NHK将棋講座』2015年5月号より

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