50代から始める「性教育」 今知っておくべき「性」に関する知識を識者が解説

50歳からの性教育 (河出新書)
『50歳からの性教育 (河出新書)』
村瀬 幸浩,髙橋 怜奈,宋 美玄,太田 啓子,松岡 宗嗣,斉藤 章佳,田嶋 陽子
河出書房新社
935円(税込)
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 皆さんの中には、これまで正面から性教育を受ける機会がなかった人もいるかと思います。特に50代前後の人々は、長らく性に関する話題がタブー視されていたこともあり、その頃の価値観がなかなかアップデートされず、現代の多様化する社会の中で困惑したり壁にぶつかったりする人も多いかもしれません。

 そこで今回紹介したいのが書籍『50歳からの性教育』です。性教育研究者の村瀬幸浩さんが6人の専門家とともに、性について「50歳からの人生を生きるうえで知っておきたいこと、見直したいこと、仕切り直したいこと」(同書より)について考察した一冊です。

 同書は、産婦人科医の髙橋怜奈さんが「更年期」、同じく産婦人科医の宋 美玄さんが「セックス」、弁護士の太田啓子さんが「パートナーシップ」、ジェンダー・セクシュアリティについて発信するライターの松岡宗嗣さんが「性的指向と性自認」、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんが「性暴力」というテーマで性について執筆。最終章では村瀬さんと女性学研究者の田嶋陽子さんが対談する構成になっています。

 それぞれ専門家の立場から詳しく解説されており、どれも根底に共通しているのは「相手を対等の立場で尊重する」ということです。「性」とはセックスに限らず、パートナーとの日ごろのコミュニケーションや家事・育児の分担、結婚観、人生観などすべてを含めたもの。一人ひとりの生き方の根幹に備わっているものであり、「私たちは誰もが人とのかかわりのなかで生きていますから、相手の根幹、つまり相手の性を知り、尊重しないことには関係を築けない」(同書より)と村瀬さんは伝えます。

 では、どうすれば相手を尊重することができるのでしょうか。同書を50歳からの性教育を行う学校のような場だとすると、校長の立場となる村瀬さんが校訓にしたいのは「威張るのをやめて、仲良くする」(同書より)ということです。50歳以降、夫婦が老いてどちらかが病むといったこともある中で、性別を理由にケアする/される側を分けるのではなく、自分より弱い側に合わせ、自分より条件のよくない側に手を差し伸べる心がけが大切だといいます。執筆者の一人である斉藤さんが「特権を持ち、上下関係で上に立つことが多い人ほど、立場の違いに注意深くならないといけません」「相手を踏みにじらないよう注意するのは、上の立場にいる人の責任です」(同書より)と記しているように、これからの時代、こうした意識はさらに重要になっていくのではないでしょうか。

 人生100年時代と言われる現代では、50歳はまだまだ人生の折り返し地点といえます。性についての学び直しは、日々の暮らしを豊かなものにし、パートナーや身近な人との関係性をよりよいものにしてくれることでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]

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