名作古典から現在に息づく都市伝説まで、そのルーツや歴史的位置づけを紹介する「怪談基礎講座」

教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで
『教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで』
吉田悠軌
ワン・パブリッシング
1,760円(税込)
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 古くから私たちの間で親しまれてきた娯楽であり、ときにコミュニケーションツールとしても機能してきた「怪談」。誰もが知る名作怪談から現在に息づく都市伝説まで、オカルト研究家としても知られる作家・吉田悠軌氏が一挙紹介する書籍が『教養としての最恐怪談』です。

 同書で注目したいのは、膨大な数の怪談が「母子」「巨女」「禁忌」「異界」といったカテゴリ別に収められている点。古典的な怪談と近年になって生まれた怪談に意外な接点を見つけたり、定番となった怪談の成立過程を知ることができたりと、そこにはさまざまな発見があることでしょう。

 たとえば母子の怪談について見てみると、日本最古の神話『古事記』には女神イザナミが出産で亡くなるシーンが出てきます。この世界初の「産褥死」は、妊娠中や出産中に死んだ女性が「ウブメ(産女、姑獲鳥)」となって化けて出るという信仰と重なる部分があることから、イザナミはウブメの元祖でもあると考えられないかと著者は考えます。そして、現代怪談の女性キャラクターにもまた、「恐ろしい死の母」というウブメの存在感は感じ取れるようです。

 同書では現代怪談に登場する女性たちを、「赤い女」(赤い服を着ている:カシマさん、口裂け女、アクロバティックサラサラなど)と、「白い女」(白い服を着ている:ひきこさん、八尺様など)に分類し、「赤い女も白い女も表裏一体の存在であり、つまるところ『子殺しの母』という本質に違いはない」「白い死装束を着ているが、その下半身は赤い血に染まっているという、白と赤のコントラストに彩られたウブメこそ、まさに彼女たちの源流として捉えるべき存在ではないだろうか」(同書より)と記します。

 古くから存在する怪談が、その時代ならではの変化や進化を経てきたというのも面白い点です。若者による肝試しは江戸時代にもおこわなれていたそうですが、1970年代になってモータリゼーションが普及すると怪談にも変化が生じます。若者たちも車やバイクで郊外へ向かうことができるようになったことから、世間には峠やトンネルの怪談が量産されるようになりました。またSNSの普及により「きさらぎ駅」という「異界駅」怪談の元祖が登場したり、最近では何かに追跡される様を報告する「バックルーム」というネット文化がTikTokに投稿され、新しい怪談として注目を集めたりもしています。今後も、新たなツールやカルチャーと融合した怪談が生まれていくことでしょう。

 著者によると、同書の狙いは「なるべく幅広い怪談群をサクッと読者の頭の中に入れてもらい、それらを気軽に別の人たちへと話してもらうこと」(同書より)だそうです。猛暑が続く今の時期、怪談の数々でヒヤッとした気分を味わいたい人は手に取ってみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

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