転職すべきか悩む人へ――20代で6回転職した作家が自身の経験を赤裸々につづる
- 『転職ばっかりうまくなる』
- ひらい めぐみ
- 百万年書房
- 1,760円(税込)
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働いたことがある人なら、今の仕事を続けるか別の仕事を探すか、一度は悩んだことがあるのではないでしょうか。そのなかには「こんなことで辞めていいのかな」「辞めたら会社に迷惑だろうな」と悩み、けっきょく辞めると言い出せないままの人も少なくないでしょう。
そんな悩みを持つ人たちへ、ライター・作家のひらいめぐみさんの著書『転職ばっかりうまくなる』(12月8日発売)に記された以下の言葉を贈ります。
「仕事を辞めるのに、社会に向けて正当な理由はなくていい。なんとなく合わないから、という理由でも、それで自分が自分を極めることになるのなら、立派な退職理由だ」
「辞めたい仕事を続けて得することは、なにもない。(中略)それに、辞めて迷惑をかけない、ということはまずない。人が退社することで少なからず調整が発生する。ただし、自分が辞めてもなんとかなるのだ。どうせ得しないし、誰にも迷惑をかけずに退社することなんてできない。だったら、次の仕事を探しつつ、円満に退社できるように引き継ぎをしっかりすることの方が大事なんじゃないか、と考えている」(同書より)
ひらいさんは20代で6回の転職を経験した人物です。そのため上記の言葉には、ひらいさんがこれまでの経験で得た学びからくる説得力を感じます。著書『転職ばっかりうまくなる』では、そんなひらいさんの就職・転職活動の内容やそれぞれの職場の様子、ひらいさん自身のことなどが赤裸々につづられています。
たとえば、初めての就職活動で苦労してやっと採用された大手企業での話。この会社では「納会」と呼ばれるビュッフェ形式のパーティーがあり、成績発表の場とされているものの、音楽が鳴り響くなか、みんなでワイワイと楽しむことがメインになっていたそうです。
入社して1カ月足らずで納会に参加したひらいさんは、会場で話せる人もおらず、話しかけられる雰囲気の人もいなかったため、「とにかく一刻も早く帰りたい」と思ったと振り返ります。その後、二次会へ向かうメンバーからそっと離れて一人になったひらいさん。当時の心境をこうつづります。
「きっとわたしがいないことなんて、誰も気づかないだろう。そう思うと、急に寂しさが全身に雪崩れ込んできた。あんなに嫌な思いをたくさんして、ようやく自分が馴染めると思える会社に出会えたのに、わたしは、なんでどこでも、こんなふうになっちゃうんだろう。結局自分の居場所なんて、どこの会社に入ってもなかったのかもしれない」(同書より)
同書を読めばわかるのですが、ひらいさんは決して人づきあいが下手なタイプではありません。むしろ、どこへ行っても仲間や味方ができて愛される人柄のようです。実際に納会のあいだ一緒に過ごしてくれる先輩もいました。それでもひらいさんは、納会に参加したことで心にモヤモヤしたものが残ってしまったようです。
その後、同僚とのやりとりで抱いた違和感、怒鳴る上司、思うようにいかない営業職の仕事など、ストレスを感じる日々が続き、ついには血便や腹痛などの症状として現れるようになってしまい、ひらいさんは休職することを決めます。
もしかしたら「そんなことで?」「繊細すぎる」と思う人もいるかもしれません。ひらいさんは、転職を繰り返すなかで「そんなんだから何回も転職してるんだよ」と批判されたこともあったと明かします。
「たぶん、許せないのだと思う。厳しく上司に怒られたりしながら結果を出し、ようやく地位を築いてきた人にとって、できないことを認め、マイペースに生きるような人間のことが。そういう人にとって、弱さを認めることは『逃げ』で、自分のできることだけで世間から評価をもらって生きるのは『ずるい』ことなのだと」(同書より)
人間は他人が自分よりラクに生きているように見えると、嫉妬して批判したくなってしまうもの。自分がこれまで頑張って耐えてきたことを否定されたような気持ちになるのかもしれません。もちろん、つらいことに耐えて成果をあげたことで達成感を得られた、成功できたという人もいるでしょう。ただ、これは誰が正しいということではなく、人はそれぞれ働き方や許容できる範囲、頑張れるポイントが異なるというだけの話なのです。
同書ではほかにも、Webマーケティングや書店スタッフでの仕事、ひらいさんが休職中に受けたカウンセリングでADHDの傾向があるかもしれないと診断されたこと、瞬間切迫環境(短い期限付きで仕事を依頼される状況)が強いストレスになると判明したことなどをつづっています。
転職回数を重ねるごとに、できること・できないこと、したいこと・したくないこと、好きなこと・嫌いなことを明確にしていったひらいさん。現在はフリーランスのライター・作家として活動しており、同書のほか『おいしいが聞こえる』や『踊るように寝て、眠るように食べる』を出版するに至りました。
それでもひらいさんはまだ「この先、自分がなんの仕事をしているのか想像がつかない」と胸の内を明かします。
「ライターと作家の仕事を続けているかもしれないし、全然違う仕事をしているかもしれない。どんな仕事に就くかよりも、自分がみじめにならないこと、自分自身を極められることを選ぶのが、なによりも大切なのではないかと思う」(同書より)
仕事を辞めることで不安や批判はあるかもしれません。しかし自分の人生をもっと大切にするべきではないか、人生の大半を費やす仕事のことで我慢し続けていていいのだろうかと、ひらいさんは同書で一貫して読者に訴えかけているように感じます。
転職すべきか悩んでいる人がいたら、試しに同書を手に取ってみてはいかがでしょうか。少し破天荒なところもあるひらいさんのドタバタ転職体験談はクスッと笑えて、心がちょっと軽くなるのを感じるはずです。
[文・春夏冬つかさ]