アイドル業界は"夢が人質"になりがち... 鈴木みのり×竹中夏海×和田彩花が「アイドルのための健康とジェンダー」を語り合う

エトセトラ VOL.8
『エトセトラ VOL.8』
鈴木みのり、和田彩花
エトセトラブックス
1,430円(税込)
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 2023年4月15日(土)、『エトセトラ VOL.8』(エトセトラブックス)刊行記念として「歌って、踊って、演じて、表現するアイドルのための健康とジェンダー」をテーマに、鈴木みのりさん、竹中夏海さん、和田彩花さんによる座談会がおこなわれました。

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『エトセトラ VOL.8』(エトセトラブックス)

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(右から、鈴木みのりさん、竹中夏海さん、和田彩花さん)

 フェミニズムを身近なテーマから考えるマガジン『エトセトラ』(エトセトラブックス)8号目の特集は、「アイドル」。同誌は、自身がアイドルの和田さん、アイドル文化を含めた表象について執筆を重ねてきた鈴木さんを編集に迎えて制作されました。そのなかで、1408もの声が集まった読者アンケート「アイドルの未来のためのアンケート」には、振付師・竹中さんが「具体的なカウンセリングの窓口がないのが一番の問題」という回答を寄せてくれました。

竹中夏海さん(以下、竹中):私は『アイドル保健体育』という本を出版しています。なぜアイドルの心身の健康をテーマにしたかと言うと、これは私なりのカモフラージュでもあって、本当はアイドル業界の働き方や構造の問題をどうにかしなければいけないって十年以上考えていたんですけど、それを言葉にして一冊の書籍にして出すってなったときに、振付師の私の立場からいきなり働き方に切り込んでいくよりも、ダンスの先生として彼女たち(アイドルたち)の心身の健康を語る切り口のほうがより説得力を持つし、伝わりやすいのではないかなと思ったからです。身体的にも精神的にも穏やかに、アイドルたちが健やかに働くにはどうしたらいいのって、けっきょく業界の構造の話になっていくので、まず足がかり的な感じで『アイドル保健体育』を出したんです。

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『アイドル保健体育』(株式会社シーディージャーナル)

『エトセトラ VOL.8』は、私が言いたかったことや問題視していたことを形にしていて、しかもいろんな人にアンケートをとっていて。十数年アイドル業界についてモヤモヤしたりこのままではいけないって思ったりしていたけど、ずっとひとりでモヤモヤしている感覚だったので、『エトセトラ VOL.8』を読んで「あ、こんなに仲間がいたんだ」っていう気持ちになりました。

和田彩花さん(以下、和田):私がアイドルグループで活動していたとき、ダンスの先生との関わりで言うと、ものすごく近い部分で一緒にお仕事をしているとはいえ、モヤモヤっとある、なんとなくのルールに接して違和感を抱くときって、だいたい先生と一緒のときではなくて。先生とは一旦レッスンの時間が終わってしまうと切り離されちゃう気がして。でもそのなかで竹中先生がそういうことに気づいてくれていたことがすごくうれしかったです。具体的に構造の問題を認識した瞬間や場面って、どんなことがありましたか?

竹中:山ほどあって何から話せばいいのかなという感じなんですけど(笑)。とはいえ、グループによってメンバーとの距離感が全然違って。たとえば最初に担当した1組目や2組目のグループは、私も振付師として所属していた、今とは違う事務所なんですけど、その事務所に所属しているアイドルグループの子たちだったので、責任を取る人みたいな、事務所の人が同じ人だったから距離感がすごく近くいられたっていうのがひとつあるんですよね。それに対して今やっているのは、違う事務所の所属タレントさん、言ったらクライアントさんで、そこから依頼を受けて振り付けをしてっていう感じなので、どちらかというと和田さんが言ったような、振り付けの時間が終わったら切り離されるのが基本です。でもそのなかでも感じることはいろいろあって。そもそも私が振付師を始めた2009年くらいって、まだ「仲良しは甘え」みたいな空気がすごくあって。

和田:「仲良しは甘え」は私の身近にもありました。私が所属していたグループはわりとみんな超なかよしこよしだったので、あんまり関係なく活動はしていたんですけど、幼いときからハロー!プロジェクトにいて、みんながみんなライバルで、仲良くしちゃいけないんだと幼いながらにも感じていたし、周りの大人からも「ここは学校じゃないんだから」「周りはライバルで誰よりも輝いてやるぞっていう気持ちが大切なんだよ」と説かれていて。今になって思うと「この世界は厳しいんだよ」みたいな、恋愛禁止もきっとそうだと思うんですけど、それを伝えるためにいろんな文句がうたわれていたんだと思います。ただ、厳しいなかでも隣にいる同じグループの人とギスギスしながら常日頃ライバルだなんて思わなくても、うまくやっていける形はいくらでもあると思う。

鈴木みのりさん(以下、鈴木):「仲良しは甘え」から、テレビにモーニング娘。がよく出ていた時期に、よくメンバーの比較がされていたのを思い出しました。別にモーニング娘。の時代だけじゃないと思うんですけど、キャットファイトとまではいかなくても、後年になってから"実はこのときこうだった"とか暴露的な話題作りもあるじゃないですか。でもよくよく考えたらそんなの誰だってあるはずで、すごく仲がいい友だち同士であっても「あのとき実はこういうこと嫌だった」「あのときちょっと話が噛み合わない時期があったよね」とか普通にあるのに、競い合わせられて、それが笑いとして成立するメディアが影響しているんじゃないかと思います。とりわけ女性同士だとそういう構図を作られがち。それはたぶん、もっと深掘りするとフェミニズムの議論でも何か話せることがあると思います。

メディアでの構造としてもそうだし、外部のファン側からもそれを許してしまっているんじゃないかなって、話を聞いて思いました。そうなってくると、なかなか相談しにくい。競い合わせられたり自分は飛び抜けなきゃいけないと思ったり、それこそ自分より年上の、業界で偉い方っていうとあれですけど、そう見えてしまう人から言われちゃうと、「そういうものなんだ」ってなってしまうだろうな、負のスパイラルになってしまうのではないかと感じました。

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――『アイドル保健体育』では女性の身体機能は神秘的と言われたり妙に神格化されたりしがちであると言及していて、身体のことだけではなくアイドルの構造や存在そのものを問題視されているのだとわかります。

竹中:『アイドル保健体育』の巻末で和田さんと対談させてもらったときに、和田さんが婦人科系(※)の問題をマネージャーに相談しようっていう発想がなかったとおっしゃっていたのが衝撃的で。私も実際に現場で感じてはいたことなんですけど、本人の口から聞くと「ああ、やっぱりそうなんだな」ってびっくりして。仕事に影響することであればマネージャーさんにまず相談するってなるのが一番健康的な関係です。風邪っぽいとか、たとえば腰が痛くてダンスに支障が出るとかだったら相談できるはずなのに、婦人科系のことになると急に「マネージャーさんにまず相談」っていうのが抜け落ちてしまう。そこに関してだけは自分でなんとかしなくちゃいけないっていう発想になってしまう。

でも「マネージャーさんによる」ともおっしゃっていたんですよね。それで、相談しようって思うマネージャーさんとそうではないマネージャーさんでどんな違いがあるんだろうなと思ったときに、やっぱり知識や出している雰囲気、自分の健康をどれだけ気にかけてくれているかっていう、普段からの実感や関係なのかなと思うので、そういう意味では、みんなが正しい知識を持つのはすごく大切だし、マストにしてほしいと思いますね。そういう子たちの人生を預かるつもりでいてほしいなって思います。

鈴木:特に女性の性に関して不潔・不浄のものと考えさせられてしまうっていう、そういう話と通じている。生理の話とか、そこに結びついた体調の話がしにくいのは、不潔・不浄のものとされてしまっている考えがあるのかなって。

竹中:ナプキン入れを「汚物入れ」って言われたりね。

鈴木:そういう一般的な習慣も構造の話だと思うんです。マネージャーさんが男性だったときに、「女の子のことにそんなに踏み込んじゃいけないんじゃないか」って思ったりもするだろうし、女性アイドル側も、できれば同性のほうが相談しやすいって思っちゃう気持ちもわかる。異性のマネージャーであっても仕事相手であっても、「この人だったら話しやすい」とかはあるかもしれないけど、傾向としてそういうふうになるんだろうなと思います。今はたぶん若干空気が変わっていると思うんですけど。

和田:3年ぐらい前だと、生理について話す機会もなかったし、メディアで取り上げられることもなく、私がアイドルグループで活動していたのはまさにそれぐらいの時期だったからこそ、不浄とまではあんまり考えてなかったけど、確かにいろんな情報から、心のどこかで不浄のものと思っちゃってる部分はあったかもしれないです。そもそも話しにくい、話しちゃいけないテーマぐらいに思っていて。あとは恥ずかしいっていう気持ちもあって、単純に話してなかったなと思います。今は逆に、ちょっとずつみんなが話せるようになっているし、メディアで取り上げられることもあって、生理についての情報にアクセスする機会もすごく増えていると思うんですよ。そういうのを積極的にマネージャーさんが読んでくれると、それだけでずいぶん変わっていく気がします。

竹中:『アイドル保健体育』では問題提起をしたところまでなので、それで終わりたくないな、何かアクションを起こせないかなと書いているときからずっと思っていました。同書では専門家の方々に話をうかがっていて、第一章「アイドルと生理」だったら婦人科の先生に話をうかがったり、第二章「アイドルと身体づくり」だったらスポーツトレーナーの先生に話をうかがったり。素晴らしい専門家の方々がたくさんいらっしゃるんですけど、アイドルの子たちがそこに行くまでの、つなげられる人や場所がないことが一番の問題かなと思って。それでスポーツジムみたいな、鍛えるだけではなく、癒したり整えたり、ただおしゃべりしに来たり、そういうことができる場所にできないかなと思って、アイドル専用ジム「iウェルネス」を作りました。

私もダンスの先生なので、ダンスの質問はもちろん、そこにまつわる体の不調を相談されることがすごく多かったんですね。ただ、振付師という職業でいる限り、基本は振り付けの依頼がクライアント側からあって、その子たちとたまたま出会えたときにしか接点を持てないので、じゃあ、体を痛めないためのダンスレッスンや筋トレ、喉を痛めないためのボイトレ、整えるためのヨガを受けられる場所を作って、それぞれが自分の体や心と向き合ったときに、先生や一緒に受けている受講者とおしゃべりの延長で体の不調の話ができたり、心の話をできたりする場所になるといいなと思いました。

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――業界で根強い「根性論」については、みなさんどのようにお考えでしょうか?

竹中:根性論の定義自体がそもそも曖昧といえば曖昧。エビデンスのないものとか根拠がないもの、たとえば「仲良し=プロ意識がない」とか、「そのこころは!?」っていう(笑)。具体的じゃない根性論・精神論がすごく蔓延しているなと思います。これはアイドル業界だけではなく、芸能界全体かもしれないんですけど、夢が人質になりやすい世界じゃないですか。外野の人からは「そんなんだったらやめればいいじゃん」「目指さなきゃいいじゃん」となるんですけど、憧れって衝動なので。「それを叶えるためにはこれくらい我慢して当然」「みんなやってきたことだよ」とか、そういうことがいろんなとこで飛び交っているなとすごく感じます。当事者ってすごく我慢させられやすいから、私は「代理で怒る」っていうのをやっていて(笑)。本当は当事者の声に耳を傾けてもらえる世の中が一番ですけど、そういう社会になるまでは、代わりに私が怒ろうかなと思っています。

鈴木:竹中さんが今話した内容とも通じて、「これはダメだろ」と言わなきゃいけないと思うのが、最近報道されているジャニーズでの性暴力。我慢させられるとかこのぐらい大丈夫でしょとか、夢が人質に取られている。芸能界って弱音を吐きづらい。一般的な労働も、とりわけ男性性と紐づけられていて弱音を吐きづらく、過労死で亡くなる場合もあって、特に男性が多いとも言われてますよね。ジェンダー規範が強固な芸能界もそういう社会とも通じていて、そのなかで特に男性アイドルの被害の実態は本人たちから語られにくいし、語られたとしても真に受けてもらえない、みたいなのが続いてきたんじゃないかなって。あの話にちゃんと向き合うことが、実は構造的な芸能界・アイドル業界の本丸なんじゃないかなって思います。根性で乗り越えるとか休みにくいとか痛いって言いにくいとか、"男性的な働き方"がすごく中心になっている。そういう環境だと、さらに弱音を吐きにくくなってくるのかなと思います。

竹中:エンタメ業界と"マジレス"ってすごく食い合わせが悪いのかなって。ジャニーズの問題とかも、いろいろな問題点があるけれど、そういうムードも原因のひとつかなと思っていて。ことエンタメの世界になると、マジレスすると「水差すようなこと言うなよ」「空気変わっちゃうわ」みたいになりやすいなと思うんです。でもマジレスしていけばもっと変わるんじゃないかな。たとえば私の教え子で、当時15~18歳ぐらいのグループがあって、15、16歳の子たちがMCのなかで18歳の最年長のことをおばあちゃん扱いするんですね。それも「あのノリ全然おもしろくないからやめたほうがいいよ」「あなたたちが尊敬するアイドルの先輩たちは18歳より全然上だけど、おばあちゃん扱いできるの?」って伝えました。あれに流されてファン側も笑ってしまったり、メンバーも違うかなと思っていても流されて笑っちゃったりしていると、そのノリが続くので、水を差そうが誰かが言っていかなきゃいけない。でもひとりだとかき消されてしまうので、みんながそういうふうになればいいなと思います。勇気はいりますけどね。

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和田:みのりさん(鈴木さん)が指摘していた男性性と結びついているという話で思い出すのが、風邪薬のCMで「休めないときに!」みたいな言葉とともに、スーツを着たサラリーマンがタクシーに乗るみたいなシチュエーションがあったんですけど、私この状況と同じだなってすごく思ったことがありました。アイドルもインフルエンザ以外、感染させてしまうもの以外では休めなかったんですよ。私も休めないときはこの風邪薬を飲まないといけないとCMを見て思ったし、まさにスーツを着ているこの男性と同じ働き方をしているんだってそこで認識しました。さらに私の場合は女性アイドルグループにいたので、いつでも笑顔でいないといけないみたいなものも入ってきて、いろんなものがごっちゃまぜになったまま根性論になっていた気がします。

そのなかで声を上げると、マジレスの話でもあったと思うんですけど、空気を乱しちゃうっていう。今フランスにいるので余計思うんですけど、日本の文化のなかで苦手とされている自己主張にもつながるなってすごく思います。「声を上げる」って言うとちょっと大袈裟な気もしちゃうんですけど、自分の思いを言うってすごく大切だなって感じていて。それが決してわがままになるわけではない。場合によってはもしかしたらわがままと捉えられちゃうこともあるかもしれないけど、自分の意見を言わないとそもそもわからないから、とにかく言うことがすごく大切なんだなって最近気づきました。空気を乱しちゃいけないみたいな、特に日本語の環境だとすごく多いと思うんですけど、自分の意見を言うとか主張するのはいいことだよという、それは教育の問題にもなっちゃうかもしれませんね。でも働く側としてそれを言う権利があるし、どんどん広まっていってほしいですね。

※子宮や卵巣があって、それらや月経に関わる健康に関して、一般的に「婦人科」や「産婦人科」と呼ばれる専門的な医療知識を持つ医師からの意見やアドバイスを求めている人は、女性に限らず、トランスジェンダーや、ノンバイナリーやジェンダークィア(男性と女性という二元の性別に一致しない人、どちらにも当てはまらない人で、日本ではXジェンダーとも名乗られている)の人々にもいます。

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