【「本屋大賞2023」候補作紹介】『光のとこにいてね』――ふたりの少女の四半世紀におよぶ心の交流を描いた感動作
- 『光のとこにいてね』
- 一穂 ミチ
- 文藝春秋
- 1,980円(税込)
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BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2023」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、一穂ミチ(いちほ・みち)著『光のとこにいてね』です。
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2022年の本屋大賞にノミネートされた『スモールワールズ』では、連作集という形で読者を温かな感情で満たした一穂ミチさん。今年ノミネートされた『光のとこにいてね』は、二人の女性が織りなす四半世紀におよぶ交流を描いた物語です。
ふたりの出会いについて記されているのが、第一章「羽のところ」。小学二年生になったある日の放課後、小瀧結珠(こたき・ゆず)はママに突然、古びた団地に連れていかれます。ママが一室で男性と過ごしている間、結珠が出会ったのがその団地に住む校倉果遠(あぜくら・かのん)という少女でした。週に一度、ママと団地に通ううちに、結珠と果遠は親交を深めていきます。着るものや食べるもの、暮らしぶりまですべてが異なる秘密の友だち。けれどあるとき、果遠の「そこの、光のとこにいてね」という言葉を最後に、ふたりの交流は途絶えてしまいます。時は経ち、第二章「雨のところ」では、結珠は高校生に。なんと彼女が通う私立校の高等部に、果遠が外部生として入学してきたのです。しかも、周りの子たちから一目置かれるほどの美少女として。これは偶然なのか、それとも......。第三章「光のところ」はさらに時が経ち、29歳の大人の女性へと成長したふたりの再会が描かれます。
同作の重要な鍵となるのが、「母」という存在です。父親が医師という裕福な家庭に育つ結珠と、母とふたりで団地に暮らす果遠。ふたりは住む世界が違う者同士ですが、母親に抑圧されているという共通点があります。結珠が「ママはいつもそうだった。取り上げるんじゃなく、私の手で捨てさせる」と言うように、彼女の母親は一見、娘に自由を与えているようで、実際は意見や希望は聞かずにコントロールしています。小学生の頃に果遠にもらった鳥の羽をはじめ、高校生になってからは進路や将来の結婚相手にいたるまで......。
そんな結珠が、自分の意思でまっすぐに突き進む果遠をまぶしく、そしてうらやましく感じたのは当然と言えるかもしれません。いっぽうで、クラスメイトだけでなく母親からも「馬鹿な子」と呼ばれていた果遠にとって、「あなたは馬鹿じゃない」と言って三つ編みや時計の読み方を教えてくれた結珠がキラキラと光り輝く存在に思えたのも不思議はないでしょう。お互いに惹かれ、強く求め合うのは何も恋愛に限ったことではありません。性別や属性に関係なく寄り添い合う関係が同書ではとても丁寧に描かれていて、読者はふたりの姿を自然に受け入れ、その幸せを願いたくなります。
また、母親と娘という関係の難しさ、女子同士ならではの距離感、思春期における繊細さなどは、懐かしくなったりせつなくなったりする人もいるかもしれません。結珠と果遠のふたりの人生を見つめながら、自分の中からもさまざまな感情が湧き出てくる――そんな贅沢で貴重な読書体験ができるであろう一冊です。
[文・鷺ノ宮やよい]