3Dフードプリンターで作るハンバーグや培養母乳!? "フードテック"最前線を紹介した一冊

「食」の未来で何が起きているのか〜 「フードテック」のすごい世界 (青春新書INTELLIGENCE 635)
『「食」の未来で何が起きているのか〜 「フードテック」のすごい世界 (青春新書INTELLIGENCE 635)』
石川 伸一
青春出版社
1,100円(税込)
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 ここ数年、大きな注目を集めている「フードテック」。「フード」と「テクノロジー」をかけ合わせた造語で、最先端のテクノロジーを活用し、新たな食の可能性を広げようとするものです。その市場規模は今後700兆円にまで膨らむと予測されています。

 そんなフードテックの最前線について書かれているのが、石川伸一さん著『「食」の未来で何が起きているのか~ 「フードテック」のすごい世界』。同書を読めば、どれほど多種多様な開発が世界規模でおこなわれているのか、みなさんも驚かされることでしょう。

 まず、食肉の代わりとしてもっとも有力なのが「代替たんぱく質」。これは「培養肉」と「代替肉」に大別されます。培養肉とは、家畜や魚などの筋肉から少量の細胞を取り出し、体外で組織培養して作られる人工肉のこと。日本ではまだ許可されておらず、「今後、培養に対する抵抗感が薄れるとともに、もっと"肉"に見えるようになると、需要が拡大する可能性は大いにある」と石川さんは記します。現在、日本でも市場規模が急拡大しているのは植物性の代替肉。大豆ミート商品などは大手スーパーでも販売され、一般家庭にも普及しつつあります。

 しかし世界を見てみると、代替肉はさらなる進化を遂げていることがわかります。

 2021年、イスラエルの企業「リディファインミート」から発売されたのは、3Dフードプリンターを使った代替肉。植物由来の素材をインクとして使い、立体的に印刷し、ハンバーグや牛ひき肉、ソーセージなどを作り出すのです。試食会の際、本物の肉と区別がつかなかった人が90パーセントにのぼったことからも、そのリアルさがうかがえます。

 肉牛と同じく、乳牛の飼育も地球環境への負荷は大きいです。そこで、カリフォルニアの企業「パーフェクトデイ」が作り出したのが、"培養牛乳"。遺伝子操作した微生物を使い、乳たんぱく質を生成して取り出し、脂肪や植物ベースの糖質など必要な栄養素をプラスし、牛乳のような風味や味わいを持つように仕上げています。

 さらに、イスラエルの企業「バイオミルク」が培養牛乳とともに力を入れているのが「培養母乳」。本物の母乳と同じ成分をすべて含んでおり、今年中にはサンプルがお披露目される予定だといいます。近い将来、もし商品化されたら、母乳が出ないことに悩む世界中の人々の助けになるかもしれません......!

 ほかにも、水産の世界では代替魚や完全養殖、ゲノム編集といったさまざまな開発がされていたり、新たなたんぱく質源として昆虫やカイコ、藻などが注目されたり、この先おとずれる食料資源不足を救うための研究が日々おこなわれています。

 また、食品開発以外にも広がりを見せているフードテック。農業の分野では、運転席に人間が乗らないロボット農機の導入、ドローンを使った農薬散布などはすでに当たり前の時代に。「農業×テクノロジー」の究極の未来像は、「宇宙農場」だというから夢が広がります。

 家庭に目を向けてみると、スマート調理機器や全自動調理ロボットなどITテクノロジーを使った製品が次々と登場しています。AIやウェアラブルデバイスを活かして健康を支える「ヘルステック」は、フードテックの応用形として今後さらに発展していくことが予想されるでしょう。

 フードテックの最前線がこれでもかというほど紹介されている同書。どのような未来が広がっているのか、劇的に変わりつつある「食」の世界を、みなさんもぜひのぞいてみてください。

[文・鷺ノ宮やよい]

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