成功を期待しなければ気楽に仕事に取り組める! 経営学者が薦める思考のストレッチ

絶対悲観主義 (講談社+α新書)
『絶対悲観主義 (講談社+α新書)』
楠木 建
講談社
990円(税込)
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 「夢に向かって全力疾走!」「逆境からの回復力!」――こうした前向きな心意気は素晴らしいものですが、誰しも同じ精神で生きられるわけではありません。むしろ、頑張り過ぎて心が折れてしまったり、思うようにいかなくて諦めてしまったりする人のほうが多いかもしれません。

 そこで今回ご紹介したいのが、楠木 建さんが提唱する「絶対悲観主義」です。これは、「自分の思い通りにうまくいくことなんて、この世の中にはひとつもない」という真実を直視し成功の呪縛から自由になることで、目の前の仕事がもっと気楽に、淡々と取り組めるようになるという考え方。そして、そんな楠木さんの仕事や生活の断片をまとめた書籍が『絶対悲観主義』です。

 そもそも、楠木さんはどうやってこのような考え方にたどり着いたのでしょうか。一橋大学を卒業、同大学院商学研究科修士課程を終了し、社会に出た楠木さんですが、駆け出しの時分は何をやってもうまくいかず、漠然とした不安を抱いていたそうです。しかし、考えを巡らせているうちに思い至ったのが、「そもそも『うまくやろう』とするのが間違いなのではないか」ということ。

「それぞれに利害を抱えて生きている世の中、自分の思い通りになるほうがヘンで、僕のような大甘の凡人にとってはうまくいくことなんてほとんどないのが当たり前」(同書より)

 これで一気に仕事や生活はラクになり、現在に至るまで楠木さんは一貫して絶対悲観主義で臨んでいるといいます。「大丈夫、きっとうまくいく」ではなく、「心配するな、きっとうまくいかないから」の精神。これまでとは真逆のユニークな思考法です。

 一橋ビジネススクールでは国際企業戦略専攻教授を務め、競争戦略を専攻する楠木さん。同書でも「ブランディングよりブランデッド」「ターゲット顧客の声を聞く」「偶然性・半利害生・超経済性」といった経営にまつわることにも触れています。

 「お金と時間」について書かれた第4章では、ほぼ無収入状態だったころ、大好きな柿ピーを少しでもお得に買おうと、スーパーでパッケージを見比べながら1グラム当たりの値段を真剣に計算していたところを妻に見られ、「情けない」と呆れられたというエピソードも......。この柿ピー計算事件により「お金がないとどうも具合が悪い」と実感したといいます。しかし、こうも記します。

「お金がもたらす効用は単調増加関数ではありません。(略)あるラインまではお金があったほうが選択肢が増え、豊かさを実感できます。しかし、一定のラインを超えた先は、お金が増えても体感幸福値はそれほど上昇しません」(同書より)
「お金に関して余計なことは考えず、人と比較したりせず、自分の生活を生きていたほうがいい」(同書より)

 悲観方向に振り切るだけで、誰でもすぐに始められる「絶対悲観主義」。「仕事に対して気楽に向き合える」「リスク耐性がつく」「首尾よくいったときは喜びにターボがかかる」と、そのメリットは多そうです。同書は、「うまくやらなくては」「失敗できない」との思いで凝り固まった思考を柔らかく解きほぐしてくれる一冊になるでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]

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