【「本屋大賞2022」候補作紹介】『黒牢城』――囚われの軍師・黒田官兵衛が事件を解き明かす......史実×ミステリの傑作小説

黒牢城
『黒牢城』
米澤 穂信
KADOKAWA
1,760円(税込)
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 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2022」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)著『黒牢城』です。
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 2021年の4大ミステリランキング制覇に続き、2022年年明けには第166回直木賞を受賞。さらには今回、「本屋大賞2022」にもノミネートされている『黒牢城』。そのスゴさ、面白さの秘密はどこにあるのでしょうか。

 時は天正6年、冬。本能寺の変からさかのぼること4年前。主君だった織田信長に叛旗を翻した武将・荒木村重は、有岡城に立て籠もり、織田軍に取り囲まれることとなります。そんななか、城内で起こった不可思議な殺人事件。家臣たちに動揺や不信が広がるのを防ぐため、村重は犯人を明らかにしなくては、と考えます。そこで彼が向かった先は、地下にある土牢でした。ここにいるのは、織田軍への謀反をやめるよう説得するためによこされ、囚われの身となった黒田官兵衛です。村重は、知将として名を馳せる官兵衛に、事件の謎を解くように求めるのでした――。

 黒田官兵衛といえば、信長、秀吉、家康の3人に重用された天才軍師。『軍師官兵衛』としてNHK大河ドラマになるなど、現代でも高い人気を誇る戦国武将のひとりです。同書はそんな官兵衛が有岡城に幽閉されていた期間があるという歴史的事実に基づきつつ、事件の謎解き要素を絡めたミステリ小説です。

 つまり、官兵衛は事件を解決する探偵シャーロック・ホームズのような存在であり、その相談を持ちかける村重は相棒のワトソン役といったところ。地下牢から出ることなく己の知恵のみで謎を解き明かす官兵衛は、典型的な安楽椅子探偵と言えるでしょう。戦国時代を舞台にした歴史小説に推理小説の要素を絡ませる......この設定の斬新さが、同書が多くの読者を魅了した理由のひとつです。

 たとえば第一章「雪夜灯籠」で起きたのは、俗に言う「密室殺人」事件。冬のある朝、有岡城内で若者・自念が矢傷を負って亡くなっているのが発見されます。自念は織田に寝返った安部二右衛門の11歳になる息子で、人質として屋敷の奥の部屋に幽閉されていました。部屋の前の庭に積もった雪の上に足跡はなく、死体のそばに矢はありません。有岡城内は万全の警備体制が敷かれていたため、自念を射った矢を部屋に回収しに入ることは不可能なはず。犯人はいったいどのようなトリックを使って自念を殺害したのか......?

 この後も春、夏、秋とそれぞれの季節に城内で奇怪な事件が続きます。これらの背景には何が隠されているのか。そして、敵方であるはずの官兵衛はなぜ謎解きに協力するのか。終盤で明かされる真実が知りたくて、読者はページをめくる手が止まらなくなることでしょう。

 史実に作者なりの解釈を加えた一級の歴史小説であると同時に、珠玉のミステリ小説でもある同書。読みごたえのある内容は、数々の賞やランキングを総ナメにするのも納得の一冊です。

[文・鷺ノ宮やよい]

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