ネアンデルタール人の発見がジミヘンの音楽を生んだ? みんなが知らない"6つの革命"とは
- 『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史』
- スティーブン・ジョンソン,大田直子
- 朝日新聞出版
- 2,090円(税込)
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世界を変えた発明家といえば、ガリレオ・ガリレイやトーマス・エジソンといった偉人たちを思い浮かべる人が多いだろう。確かに彼らは私たちの暮らしを豊かにする大発明に寄与している。では、彼らはどのようなきっかけで大発明を成し遂げたのか? そこまで思いを馳せた経験がある人は少ないはずだ。
今回私が手に取ったスティーブン・ジョンソン氏による著書『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史』(朝日新聞出版)は、過去の大発明を魅力的かつ"ややこしい"視点から語っている。とはいえ、もちろんネガティブな意味ではない。たとえば本書の帯には、以下のような記述がある。
「リビア砂漠で旅人がガラスにつまずかなければ、インターネットはなかったかもしれない。ガリレオが教会の祭壇に見とれなければ、正確な時間は生まれなかったかもしれない。ネアンデルタール人が洞窟の音響効果に気づかなければ、ジミヘンの音楽は生まれなかったかもしれない」
なんとも興味深い惹句だが、先に私が"ややこしい"と述べた意味をご理解いただけただろうか。本書を読破すれば、あなたも上記の文章を解読することができるはずだ。
さっそく第1章で紹介された「ガラス」について触れてみよう。帯にもあったリビア砂漠とは、偶然ガラスが誕生した地。およそ2600万年前にありえないほど乾燥したその土地で、さまざまな化学的条件が相まってガラスという物質が生まれた経緯がある。それから時を経て約1万年前、リビア砂漠を旅していた誰かがガラスの大きなかけらにつまずくことに......。
発見されたガラスはツタンカーメン王の墓に入れる装飾品に使われ、ローマ帝国最盛期にはガラス職人によって先進技術へと変容。やがて世界初の眼鏡が作られ、顕微鏡、テレビへとここには書ききれないほどの進化を遂げていく。そして現在に至り、ガラスがスマホカメラのレンズやコンピューターの画面などに使用されているのはご存知の通りだろう。
「私たちがほとんど意識していないのは、このネットワーク全体をガラスが支えていることである。ガラスのレンズを使って写真を撮り、グラスファイバーでつくられた回路基板でその写真を保存・処理し、グラスファイバーのケーブルで世界中に送信し、ガラスでつくられた画面で楽しむ」(本書より)
たしかにガラスが発見されなければ、今日のようなインターネット中心の社会は生まれていなかった可能性が高い。ネットを活用している現代人は、リビア砂漠でガラスのかけらにつまずいた"誰か"に感謝を捧げるべきなのかも?
本書には「ガラス」の他、「冷たさ」「音」「清潔」「時間」「光」の発明に関するエピソードが収められている。中でも興味深いのは、「音」に関する発明。なぜ洞窟の音響効果に気づかなければ、天才ギタリストであるジミ・ヘンドリックスの音楽が生まれなかったのか気になる人も多いはずだ。
パリ大学の学者イゴール・レズニコフ氏が唱えた説によると、ネアンデルタール人は洞窟の反響を利用して呪文や歌を魔術のように広げていたという。しかし声を"広げる"ことはできても、壁画と違って音を"記録する"ことはできない。とはいえ音響の未来を築き上げるためには、十分なきっかけとなったようだ。
「人間の声を拡大したい、そして究極的には再現したいという衝動はやがて、一連の社会とテクノロジーの飛躍的発展、すなわち通信とコンピューター、政治、そして芸術における革新への道を開く」(本書より)
1500年ごろには"音は目に見えない波となって空気を伝わる"という仮定のもと、科学者たちが研究を開始。啓蒙運動の時代までには、音波が鼓膜の振動を引き起こす様子が解剖学の書物に記されていたというから驚きだ。それから気の遠くなるような長い時間を経て蓄音機や真空管の誕生に至り、人類は真空管アンプによって"声を大きくする"方法を手に入れる。そしてアンプを使った際に生じる"ハウリング"を音楽に取り入れたアーティストの1人こそ、ジミ・ヘンドリクスだった。
「ヘンドリクスは一九六〇年代末にそのようなハウリングだらけのレコーディングでギターを演奏していただけでなく、ギターの弦の振動、ギターそのものに取りつけたマイクのようなピックアップ装置、そしてスピーカーを利用し、これら三つのテクノロジーの複雑で予測不能な相互作用を土台に、新しいサウンドをつくっていたのだ」(本書より)
人類が発展を遂げてきた道のりに歴史あり。革命の物語を通して、いかに私たちの生活を支えるテクノロジーが生まれてきたのか探ってみてほしい。