【「本屋大賞2021」候補作紹介】『オルタネート』――NEWS・加藤シゲアキ渾身の一作。未来を選び取る若者たちの青春物語

オルタネート
『オルタネート』
加藤シゲアキ
新潮社
1,815円(税込)
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 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2021」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、加藤シゲアキ著『オルタネート』です。
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 第164回直木賞候補作品に選ばれ、さらに本屋大賞2021、第42回吉川英治文学新人賞にもノミネートされている本作。全力で今を駆け抜ける10代の若者たちを鮮やかに描いた青春小説です。

 高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が流行している現代。東京にある円明学園高校を舞台に、3人の登場人物が中心となり物語が展開していきます。

 ひとりは、3年生の新見 蓉(にいみ・いるる)。料理人の父を持ち、調理部の部長も務める彼女は、昨年参加した全国配信の料理対決番組「ワンポーション」の決勝戦で失敗してしまったことに、今もトラウマを抱えたままでいます。

 もうひとりは、1年生の伴 凪津(ばん・なづ)。家庭環境に悩みを抱える彼女は、絶対真実の愛を求めてオルタネートにハマっています。ある日、遺伝子レベルで相性のよい相手を教えてくれるという新機能を利用し、運命の相手が桂田武生(かつらだ・むう)であることを知ります。

 最後のひとりは、楤丘尚志(たらおか・なおし)。大阪の高校を中退している尚志は、円明学園高校に通うかつてのバンド仲間・安辺 豊(あんべ・ゆたか)を探して上京します。再会した安辺はすでに音楽をやめていたものの、尚志は音楽家たちが集うシェアハウスに空きを見つけ、東京での生活をスタートすることに。

 この3人は直接の知り合いではないものの、それぞれ密接に関わっているのがオルタネートというアプリ。「お互いがフロウを送り合うことでコネクトとなり、メッセージなど直接のやりとりが可能になる」(本書より)というのが基本的な使い方です。架空のアプリではありますが、「SNSが身近にある若者」というのは現代ならではの設定で、それが物語や登場人物にある種のリアリティをもたらしています。

 ゆっくりと展開していた序盤のストーリーが加速するのは、蓉たちが今年度の「ワンポーション」の本選出場を決めたあたりから。蓉はそれまで順調だった交際相手の三浦栄司(みうら・えいじ)と衝突し、恋愛と料理の間で葛藤します。

 一方の凪津は、実際に運命の相手・桂田と会ってはみたものの、まったく会話が弾まずに終わってしまいます。その後、アプリに不具合があったという通知が来たことで、彼女はまったく別の人が運命の相手だったことを知ります。そして尚志は、シェアハウスを自分の居場所としてうまくやっていたつもりが、メジャーデビューが決まったという同居人と殴り合いのケンカをしてしまいます。

 それまでのもどかしさを蹴散らしていくかのように、全速力で自身の手で未来を変えていこうとする3人。「ワンポーション」本選では一瞬の心のゆらぎからミスを招いてしまった蓉でしたが、一緒にペアを組んでいる後輩・山桐えみくと力を合わせ、見事決勝戦進出を決めます。

 そうして訪れた決勝戦。その日、円明学園高校では文化祭が開催されており、桂田と対峙する凪津、いきなりステージで安辺とセッションすることになった尚志の動向もからんできます。

 オルタネートとは英語で「alternate」。「交互に起こる、互い違いになる、交互に繰り返す」「〈電流が〉交流する」という意味を持つといいます。蓉・凪津・尚志の三者が交互に描かれていくシーンは、まさに物語のクライマックスといえる部分。息もつかせぬ疾走感に、みなさんも彼らのいる青春の真っただ中へと引き込まれることでしょう。

 著者・加藤シゲアキさんがアイドルグループ「NEWS」の一員であることで話題性もありますが、それを抜きにしても、今を生きる若者たちが未来を選び取っていく物語として大きな魅力を秘めた小説であるといえるでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]

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