事件が起きたから幽霊が出るわけじゃない!? ワケあり物件にまつわる不思議な話

事故物件怪談 恐い間取り
『事故物件怪談 恐い間取り』
松原 タニシ
二見書房
1,540円(税込)
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 前の住人が自殺・殺人・孤独死・事故などで死んでいる部屋や家のことを指す「事故物件」。普通だったらできれば避けて通りたい物件ではないかと思いますが、そんなワケあり物件を転々としている人がいます。それが松竹芸能所属のピン芸人、松原タニシさん。

 きっかけは"事故物件で幽霊を撮影できたらギャラがもらえる"というテレビ番組の企画だったそうですが、それにはじまり大阪、千葉、東京などこれまで6軒の事故物件に住んできたそうです。

 本書『事故物件怪談 恐い間取り』は松原さんが生活してきた事故物件での体験談、実際に事故物件に住んでいた人に取材した話、さらには心霊スポットや怪奇現象が起きる"ある意味"事故物件な場所での出来事などを間取り付きで紹介している一冊。小説や映画などフィクションのホラーも怖いものですが、本書の恐ろしさはなんといっても「住む」という私たちの生活に根差したところにある実話だという点ではないでしょうか。

 とくに第一章の「僕と事故物件」は実際に松原さんが住んだ事故物件について書かれており、不気味さや不可思議さがリアルさをともなって伝わってきてしみじみ怖い......!

 たとえば最初に住んだ、過去に凶悪な殺人事件があったという大阪のマンション。事件は4階で起きたというのに、なぜか1階のフロアが事件後にすべてぶち抜かれ、住人の誰ひとりも自転車を停めていない駐輪場になっているといいます。松原さんの部屋は6階になりましたが、住み始めてからというもの、ニット帽の男性の幽霊(?)を目撃したり、記録のために録画していた映像にオーブが映り込んだり、マンションの前でひき逃げ被害に遭ったりと尋常じゃない事態に。ページをめくりながら「やはりこれは殺人事件の因縁が......?」と思ったものの、そこには予想を上回る驚きと恐怖が待っていました。偶然、同じマンションに昔住んでいたという男性と知り合った松原さん。彼は松原さんがひき逃げに遭ったのと同じ季節に三年連続でひき逃げに遭っており、引っ越してからある日、テレビのニュースを見てそのマンションで殺人事件が起きたことを知ります。つまり、殺人事件の前から奇妙な現象は起きており、「事件が起きたから幽霊が出る」わけではなく、元々"何か"がある場所なのだと考えられるというわけです。

 "何か"とは何なのか、ニット帽の男性は誰なのか、なぜ1階が突然駐輪場にされたのか、そこに明瞭なオチも説明もありません。でも、この釈然としないモヤモヤ感がまた実話らしくて恐怖を誘われます。

 松原さんは本書の「はじめに」で、「事故物件で起きる不可解な現象がいったい何を意味するのかいまだにわかりませんが、"死"を身近に感じる事故物件に住むことで、奇しくも僕は"生きる"ことについてより考えさせられたのでした」と書いています。本書を読んでも(読んだらなおさら)事故物件に住みたいなんて思えないかもしれませんが、松原さんの体験を疑似体験することで、皆さんも生きている実感を得ることはできるかもしれません。ただし、自宅でひとりで夜中に読むのはそうとうこたえますのでご注意を!

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