民族音楽でトランス状態になる原因は皮膚の"聴覚"にあった!?

驚きの皮膚
『驚きの皮膚』
傳田 光洋
講談社
1,620円(税込)
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 みなさんは皮膚についてどのくらいご存知でしょうか。たとえば重さ。最も表面にある薄い表皮と、その下にある厚い真皮とに、おおきく分類される皮膚ですが、その重さは大人で約3キログラム近くもあるそうです。ちなみに脳は1.4キログラムなので、脳の倍以上が皮膚の重さということになります。

 皮膚というと、触覚と結びついたものだとイメージする方も多いでしょう。しかし、本書『驚きの皮膚』の著者・傳田光洋さんによると、人間の皮膚は、触覚だけでなく、聴いたり、見たり、嗅いだり、味わったり、さらには学習、予知といった多様な感覚を持っているのだといいます。

 皮膚が聴いたり見たり、果ては予知までするとは、いったいどういうことなのでしょうか。

 たとえば、皮膚が聴くということ。人間の聴覚はすべて耳によるものだと考えがちですが、皮膚、表皮もまた音波を感知しているのではないかと傳田さんはいいます。

 インドネシアの民族音楽・ガムラン(さまざまな大きさの銅鑼や鍵盤打楽器を合奏)の演奏時、演者がトランス状態になる原因として、耳には聞こえない音波の影響に着眼した研究があることを知った傳田さん。その研究によると、ガムランのライブ音源には10万ヘルツ以上の音まで含まれており、このライブ音源に体表がさらされると、脳波や血中のホルモン量に変化が認められることがわかったそうです。

 これを受けて傳田さんは、高周波数音は表皮機能にも作用するのではないかと考え、破壊した皮膚バリア機能の回復速度への音の影響を調べることに。

 その結果、次のようなことがわかったといいます。

「可聴音である5000ヘルツの音はバリア機能回復に影響を及ぼしませんでしたが、1万〜3万ヘルツの音の照射は、バリア機能の回復を促進したのです。この結果から、高周波数音がまず表皮において何らかの生理的変化を起こし、それがさらにホルモンレベルや脳波に作用している可能性が考えられます」(本書より)

 さらに、表皮が高周波数音に反応できるということは、危険をすばやく皮膚で感じて反射的に逃げることもまた可能なのではないかと指摘します。

「たとえば落雷、噴火、地滑り、倒木など、危険な状況を、視覚や耳による聴覚で認識し、それを避けるより前に、それらの状況の際生じる高周波数音に瞬間的に反応する別のシステムが存在するのではないでしょうか」(本書より)

 本書では、さまざまな実験を通して明らかになった、皮膚の驚くべき力に注目。そして絵画、音楽、文学といった芸術もまた、元来、この皮膚感覚と密接に関わっているのだということを次々と明らかにしていきます。本書にて、皮膚の持つ大いなる可能性に触れてみてはいかがでしょうか。

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