インタビュー
映画人の仕事

第4回 編集技師/上野聡一さん【後編】

編集技師 上野聡一さんに聞く、 映画と仕事【後編】

 さて後半! 編集技師の上野さんに、あの作品の制作の裏側と、好きな映画をうかがいました。

『眉山』で編集の醍醐味を味わった
 現在編集作業中の『清須会議』はもとより、三谷幸喜監督とは『ラヂオの時間』以来の長いお付き合い。そして犬童一心監督作品もまた、上野さんの常連作のひとつです。
「作品それぞれに思い出がありますが、特に思い出深いのが犬童さんの『眉山』ですね。編集の力で作品を面白くできることって、実際にはそんなに多くはないんです。でも、『眉山』は監督と一緒に編集をやっていて、確かにどんどん面白くなっていきました。やりながら"これはもしかしたら?"ってワクワクしていたことを、よく覚えています」
 2007年に公開された『眉山』。その年の日本アカデミー賞では、犬童監督が優秀監督賞、上野さんが優秀編集賞を受賞しました。特に思い出に残っているのは、映画のクライマックスでもある阿波踊りのシーンだそう。
「阿波踊りのシーンから、撮影がスタートしたんですよね。徳島の阿波踊りに実際に行って、とりあえず撮れるだけ撮ろうと、3日間、5台のカメラを回し続けて。僕は普段はあまり撮影に同行しないのですが、その阿波踊りの撮影には一緒に行きました。徳島の人たちって、1年を阿波踊りのために生きているような感じで、その熱量がよそ者の僕にすらも、すごく伝わってきました。行ってよかった、作品に活かせるなって、思いましたね」
 でも、ワクワクと苦労は隣り合わせだったみたいです。
「その3日間に撮った素材が、当然ながら最初の素材としてどーんと僕のところに来まして。ゲリラなので勢い任せで撮っていますから、音も全然合ってないし(笑)。それを整理して、クライマックスっぽく構成するのは、苦労しましたね。自宅に持ち帰ったりしてずーっとやっていたのですが、朝から阿波踊りを流してる変な家があるなって思われていたかもしれません。正直、気が狂いそうでしたね(笑)。でも、やってる時は大変でも、やっぱり楽しかったですよね。そういう物理的な苦労は、全然やれちゃうんですよ」

編集マンが見る、北野作品
「編集マンとして見てすごい作品っていうのは、特にはないんです。よく言われるのは『ワイルドバンチ』(1969年/監督:サム・ペキンパー、編集:ルイス・ロンバルト)の銃撃戦とか、『レイジング・ブル』(1980年/監督:マーティン・スコセッシ、編集:セルマ・スクーンメイカー)とかなんですけどね。でもやっぱり、面白い作品は構成が優れている。役者の芝居もありますが、結局は物語の運びが上手いから面白いのであって、それは少なからず編集の力でもあると思うんです。だから、編集だけをとってこれだというのはないんですよ」
 と、そんななかでも、上野さんから名前が挙がったのが、北野作品。
「武さんの作品はやはり面白いですよね。編集的にといわれると、『3-4X10月』(編集:谷口登司夫)や『ソナチネ』(編集:北野武)でしょうか。そう、武さんの作品って、紙芝居みたいなんですよ、撮ってきた素材が。どのカットをどこに持っていっても話が破綻しないというか。それを実際に目の当たりにしたのが『HANA-BI』でした。編集室に監督が入るたびに、作品が本当に様変わりするんですよ。セリフが少ないということもあり、そのたびそのたびに変わる構成を、破綻なく見られてしまうんです。そういう可能性を秘めているんです。『3-4X10月』や『ソナチネ』は完成品しか観ていませんが、観る人の頭の中でどんどんストーリーが膨らんでいく。観る側に想像する余地が残されているんですよね。あの独特の淡々とした感じが、たぶんいくらか力を貸しているのかもしれませんが」
 
「初期のティム・バートンは神がかっていたと思います」
 では、編集というところから離れて、個人的に人生イチの映画ってありますか?
「1位かというと微妙ですが、僕ははみ出し者の映画が好きで、初期のティム・バートンはまさにドンピシャ。神がかっていたと思いますね。『バットマン リターンズ』(1992年)とか『シザーハンズ』(1990年)とか。最近はもう見る影も・・・というか、観ていないんですけどね。あとは『その男凶暴につき』『ニキータ』『スカーフェイス』あたりかな。好きな作品は、だいたい最後悲劇で終わるもの。それがたまらないんですよね」
 また、最近夢中になったというのが、あのアニメ!
「映画ではないんですが、『魔法少女まどか☆マギカ』。主人公が、人のために自己犠牲でがんばるんですよね、自分なりに。それが必ずしもいい方向にはいかないんだけど、だからといって傍観することもできない。友達を思うあまりにそうなってしまうというのが、切ないんです。見せ方がすごく上手い。編集というより、演出が上手なんだと思います。まんまと術中にはまってしまいました」
 ちなみに、昨年イチの映画は?
「昨年はあまり劇場に行けなかったんですが、『バトルシップ』は面白かったですね。やってることはバカバカしいんですが、ほんとにそこに徹していて。よくあれに200億もかけて作ったなって(笑)。個人的な好みですが、音の使い方が好きですね。いくつかキメのシーンがあるんですが、キメ前に一瞬音楽がなくなって、ひと言ぽつりと言ったあとに音楽がまた流れて盛り上がっていく。そのリズムがいいんですよ。観た人はわかってくれると思います」

編集マンに必要な能力とは?
「一番大切なのは、監督の狙いを理解することと、その狙いに近づけていくための構成力です。それらを持った上で、監督に上手にプレゼンテーションができれば言うことなしですね。ただコミュニケーションについては、結果を見せれば通じるものでもありますから、やはり大事なのは理解と構成力。理解というのは、監督の伝達力にもよりますが、口べたな監督というのはあまりいないので、それほど苦労はしません。で、構成については、撮影が終わったら素材はその時点であるものしかありません。追加撮影なんてやらせてもらえませんから。その中で、監督の狙いを具現化していくわけですが、行き違いはもちろんあります。その溝をコミュニケーションで埋めていくんです。それを面倒に感じる監督は自分で編集もやるのかもしれませんね。そうではなくて、一度編集マンという人のフィルターを通して具現化したいという監督が、編集マンとの共同作業を選ぶんじゃないでしょうか。編集マンは技術的な面をカバーするだけでなく、監督にとっての第三の目でもあると、僕は信じたいですね」

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編集室に籠もっての作業中は、おやつも必需品です。

 では、編集マンを目指す人が、鍛えておくべきことは何ですか?
「やはり一番は映画を観ることです。それと、専門的な編集はできませんが、WindowsにもMacにも付属の編集ソフトがついていますから、それを使ってどんどん編集してみることです。YouTubeなんかにも、既存の作品を意図的に編集してギャグにしたようなものなどが上がってますが、それも編集の面白さのひとつです。自分でやってみて素養を鍛えておくのは、いいかもしれないですね」
 と、言うまでもなく今の若者たちは、「編集」を日常の中で行っているのではないか?と、上野さんは言います。
「昔よりもずっと、無意識の言語として"編集"という感覚を持っている人が多いですよね。堅苦しくなく、普通に"編集"をやっているんです。昔は結婚式や子どものVTRなんかも、基本的には撮りっぱなしだったと思うんです。でも今、YouTubeや何かで見るものって、だいたいどれも見やすく編集されていますよね。起承転結もあるし。でもそれは、編集しているという感覚ではなくて、動画をアップロードする時に、これってなんだか退屈だなぁなんていじっていると、自然と編集になっている。誰に言われなくとも、自然とそういうことができる力を、今の人たちは持っているんじゃないですかね」

(取材・文/根本美保子)

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上野聡一(うえの・そういち)

1969年、広島県生まれ。KYOTO映画塾を経て、フリーの編集マンに。主な作品に、犬童一心監督『ジョゼと虎と魚たち』『眉山』ほか、曽利文彦監督『ピンポン』、宮藤官九郎監督『真夜中の弥次さん喜多さん』、三谷幸喜監督『ステキな金縛り』『ザ・マジックアワー』ほか、20年間で手がけた作品は、助手時代も含めて80本に及ぶ。

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