インタビュー
映画人の仕事

第2回 宣伝プロデューサー・映画祭ディレクター/大場渉太さん(日活)【part3】

part3
オタクにも、根暗にもちゃんと光が当たる! それが映画業界だ!

 映画業界で活躍するすごい映画人に、「仕事としての映画」について語っていただくコーナー。part1part2に続き「日活」の宣伝プロデューサー、大場渉太さんの仕事インタビューをお届けします。


 映画祭の運営やイベントの司会など、日活社外での活動も精力的に行っている大場さんですが、日活での本業は宣伝プロデューサー。これって一体、どんな仕事なのでしょうか?
「宣伝プロデューサーというのは、簡単に言うと"設計図を書く人"ですね。基本的には"誰に向けて、どういうジャンルで、いくらでこの映画の宣伝をします"という宣伝活動を管理する仕事ですから、けっこう地味ですよ。ポスター・ちらしなどの宣伝材料がいくら、予告篇の制作にいくら、広告にいくらと、設定金額からはみ出ないように管理をする立場なので」
 こういった宣伝費の試算は、洋画なら買い付け、邦画なら制作の段階でたいてい行われるそうです。では、これまで携わったなかで、思った以上に宣伝効果が発揮された映画は?
「園子温監督の『冷たい熱帯魚』(2010年)ですね。ほとんど宣伝費を付けられなかったんですが、そんななかでもとにかく"反メジャー"を貫きました。東宝・東映・松竹の映画を観ている人に度肝を抜かせるというのが全てでしたね。こういう映画もある。それが刺激的で面白いんだ!というのを見せてやりたかった。犬がどうたら、余命幾ばくとか、そういうんじゃなくて、人が生きるためには人を殺さなきゃいけない時もあるんだと。昔の深作欣二とか、そういった荒々しい強烈なものを、今の若い人に投げかけてみようというのはありましたね」
 そしてもうひとつこだわったのが"日本映画っぽく宣伝しない"ことでした。
「園子温は当時日本ではまだあまりフィーチャーされていませんでしたが、2008年の『愛のむきだし』が海外、特にヨーロッパでやたら高評価を受けていました。そこで海外から"園子温すげー"というのを響かせようと、ひとつにはヴェネツィア映画祭に行ってネタをフィードバックさせたのと、あえて日本映画っぽく宣伝しない、迎合しないことを意識しました。これはいいですよ!ではなくて、この映画はイエスかノーか。ジャンルも"猛毒エンタテイメント"として、映画に賛同する人、しない人をかっちり分け、意見を言い合いできる場所としてソーシャルメディアを使いました。嫌な人も絶対にいる映画だったので、それも含めてこの映画を語ってもらえたらと。是か非かで物議を醸せるようにしたんです。あとは、海外で園子温がどういう監督なのかを紹介したり、公開前には園子温映画祭もやりました。実はこれの前に、三池崇史の『ヤッターマン』もやったんですよね。それはザ・東宝みたいな宣伝をやれって言われていたので、面白かったけど疲れました(笑)。そのフラストレーションがあったので、『冷たい熱帯魚』には余計に力が入りました」
 でも勘違いしないでくださいね、別に大場さんはヤッターマンをディスっているわけではありませんよ! ターゲットが違うだけです! って、こういうのを迎合発言というんですかね。映画部のへタレっぷりが露呈してしまいました。


映画界には根暗な人が多い。だから君もおいでよ!
 さて、ここまで読んでくださった方の中には、大場さんのような宣伝プロデューサーになりたい!と思っている方もいらっしゃると思います。そこで、どんな人がこの仕事に向いていると思うかを、聞いてみました。
「映画宣伝の仕事は、人が好きじゃないとできないと思います。でも、根暗だからといって宣伝に向かないというわけではないと思いますよ。僕も根暗ですし。そもそも映画業界にはいろんな人間がいるので(乱世編参照)、どんな人がかかわっても何もおかしくない。そういう意味では、この世界はゆるくもあり、いろんな人にチャンスがあると思います!」
 根暗でも大丈夫。大場さんが太鼓判を押すのにはちゃんと理由があります。
「映画雑誌もかつてはたくさんありましたが、『ロードショー』は休刊し、『スクリーン』だってほとんど売れていない。『キネ旬』は相変わらずですが、そんななかで唯一売れ始めている雑誌、何だと思います? 『映画秘宝』なんですよ。あんな根暗のオタクたちが作ったような雑誌が、マイナーではなくメジャーになっている。これってすごいことだと思うんです。つまり、映画業界には、そういう人たちにちゃんと光が当たる可能性があるということなんです! いまや『映画秘宝』は超一流雑誌ですよ。『桐島、部活やめるってよ』という映画の中にも"今月の映画秘宝見た?"っていうシーンがあるくらいですから。これも原作ではキネ旬だったのを、脚本の段階で今だったら『映画秘宝』だろと、わざわざ変更したそうです。この世界はなんでもありなんです。好きこそものの上手なれじゃないですが、気持ちがあればチャンスは必ず来ます!」
 なんと心強い言葉。根暗はみんな、映画業界に集合だ! 最後、大場さんから映画業界を目指す根暗たちにだめ押しの熱いメッセージがあります。
「とにかく続けていってください。継続は力だと思うので。誰に何を言われたとか、KYだとか気にしないでください。僕は、空気は読めなくていいと思っています。だって、空気を読めない人が言った言葉の方が記憶に残るじゃないですか。"そういえばあの人、あんな変なこと言ってたよね"って。空気を読まずに言った言葉は、何かの時に思い出すんです。それがまたチャンスになるはずです。自分の気持ちや好きなものが、他人からどう言われようと、決して諦めずにどんどん言い続けていってください。僕はそうやって、今ここにいます」

(取材・文/根本美保子)

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大場渉太 (おおば・しょうた)

1967年山形県生まれ。「株式会社日活」宣伝プロデューサー、映画祭ディレクター。大学卒業後、映画宣伝会社「P2」を経てフリーの宣伝プロデューサーに。その後日活に入社するも2年で退社し再びフリーとなり、2005年日活に再入社。宣伝プロデューサーとして園子温監督『冷たい熱帯魚』『恋の罪』などを手がける。数多くの映画祭の運営にも携わり、立ち上げから参加している「したまちコメディ映画祭in台東」ではチーフ・ディレクターを務めている。現在新たに戦略をねっている作品群に一度はブームになって消えたインド映画の日本においての復興?逆襲?の仕掛けを水面下で進めてるらしい。

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