【映画を待つ間に読んだ、映画の本】第40回『白組読本』〜トップ映像制作集団の全貌が書かれた本だが・・・。
- 『白組読本』
- 公野勉
- 風塵社
- 2,700円(税込)
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●円谷プロ経験者が、白組に切り込む。
白組といえば、ちょっとした映画ファンならばその名を耳にしたことがあるだろう。「紅白歌合戦」のことではない。最も有名なのは、『ジュブナイル』『ALWAYS 三丁目の夕日』『永遠の0』『海賊とよばれた男』など、山崎貴監督作品での精密なVFX映像の仕事。これを手がけたのが、映像制作会社・白組である。最新のデジタル技術を駆使して、アニメやらCGやらVFXを縦横無尽に使いこなす組織と思いきや、その原点はミニチュア特撮とアニメーションだという。
そんな白組に取材し、本書を著したのが、かつて円谷プロダクションに在籍した経験を持つ公野勉だというあたりが興味を惹いた。円谷英二が設立した、アナログ特撮のエキスパート集団だった円谷プロの経験者が、デジタル特撮を中心に今や映像業界に君臨する白組に切り込む。これは面白い。そう思い、厚さ2.5cm(実測)の本を読み始めた。
●「すごいですね」「見事なものでした」というやりとり。
カラーページでの白組スタジオ紹介に続いて、小川副社長のインタビュー。この人の発言を通して、白組創世記から現在までの歩みが語られる。いわば白組講座・基礎編。そして次は実践篇。そうした白組の仕事を通して世に出たクリエイターたちへのインタビュー「白組のクリエイティヴ・タレント」では、山崎貴監督、渋谷紀世子VFSディレクター、八木竜一監督、花房真アートディレクター、岩本晶監督といった面々の白組での仕事ぶりや映像に対する考えなどが、インタビュー形式で語られる。そして白組を盛り立ててくれる3人のプロデューサーへのインタビューと続き、締めは白組社長・島村達雄が登場。白組のこれまでと、これからを大いに語るといった盛りだくさんの内容だ。
総じて著者の公野が白組の過去の仕事ぶりやクリエイターたちの実績を云々するのではなく、自身の口からインタビューという手段を取って語らせることで、読みやすく発言者の人間像にまで迫ることが出来る、立体感のある読み物となっている。ただ発言者が阿部秀司、島村達雄といったVIPクラスの人物になると、質問内容に配慮しすぎな気もする。質問者が「『ジュブナイル』や『リターナー』のポスターのティザー感やビジュアルセンスはすごかったですね」と水を向けると、「見事なものでした。日本の映画のポスターを変えたと言われているくらいです」と応じる阿部社長。この謙虚さが微塵もないやりとりから、気持ち悪ぃものを感じるのは私だけだろうか。
●山崎監督の「そういう人は、撮らないで欲しい」発言の真意は?
今や白組の看板クリエイターになった山崎貴監督には、筆者も何度か取材しているが、本当に相手にストレスを感じさせない人で、常にフレンドリーでオープン。これほど取材のしやすい監督はいない。そうした山崎監督のインタビューが本書に掲載されているが、ちょっとこの内容には驚いた。常に周囲への気遣いや配慮を忘れない(と、思う)山崎監督がこんなことを口にするとは。
「当たらなくてもいいんだという前提で、自己表現として作品を作る人が許せないですね」「そういうことをするからどんどん市場が狭くなっていくんです。成功体験をどれだけ積めるかが、その仕事を発展させることにつながる重要な要素で大切なことなのに、『失敗するのはわかっているけれど好きなことをやる』という考え方は、仕事に対して不誠実な態度だと思います。優先順位が逆というか。そんな人間にはできれば映画を撮らないでもらいたいと思います」
確かに山崎監督の作品はこのところヒットしているが、自分が成功している法則を他者にまで当てはめ、それに該当しないからと言って「不誠実」「映画を撮らないで欲しい」と言うのはどうだろうか。言い過ぎではないか。他人は他人。人それぞれ映画への取り組み方は色々ある。全国300スクリーンで公開されるだけが映画ではないし、単館ロードショーで上映されている映画がすべて芸術性が高いとも思わない。そこまで自身の作品が市場を広げているという自負があるのならば、この正月に公開された『海賊とよばれた男』の興収が現在23.2億円で、同じ原作者、同じ主演の『永遠の0』の87.6億円に対して26.48パーセントというこの事実をどう受けとめているのだろうか。上記の発言の真意と併せて、ぜひお聞きしたいものだ。
●あまりにも恥ずかしい間違い。
その山崎監督インタビューについて、もう1点。
これはまあ、単純なミスだとは思うが、彼の『BALLAD 名もなき恋の歌』という映画が『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』の実写リメイクだということについて触れた件。これについて山崎監督の発言が、こう書かれている。
「その演出を務めた水島努は高校時代からの友人だったんですよ。まさか水島に感動させられるとは思わなかったので、そういう意味でも驚いた作品でした」と。
・・・あの、「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」(本書では「「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大決戦」と表記」の監督は、原恵一なんですが。しかもこの作品、文化庁のメディア芸術祭アニメーション部門で大賞を受賞した、原監督の代表作の1本と言える作品だ。その監督を間違えようとは・・。ただしこのことは、山崎監督の発言を、タイトルともども確認しなかった著者、そしてその間違いに気づかなかった編集者の過失でもある。連帯責任ということですな。
(文/斉藤守彦)