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映画ジャーナリスト ニュー斉藤シネマ1,2

【映画を待つ間に読んだ、映画の本】第39回『アメコミ映画40年戦記/いかにしてアメリカのヒーローは日本を制覇したか』〜これさえ読めば、アメコミ映画も恐くない!?

アメコミ映画40年戦記 -いかにしてアメリカのヒーローは日本を制覇したか (映画秘宝セレクション)
『アメコミ映画40年戦記 -いかにしてアメリカのヒーローは日本を制覇したか (映画秘宝セレクション)』
小野 耕世,池田 敏,石川 裕人,堺 三保,てらさわホーク,光岡 三ツ子
洋泉社
1,620円(税込)
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●"しょせんは赤いパンツ履いた兄ちゃんが、空飛ぶ映画"

 『マン・オブ・スティール』が公開された頃だから、4年ほど前のことになるかな。某所のコラムにこの映画についてこんなことを書いた。「アメコミ映画だスーパーヒーローだと言ってみても、しょせんは赤いパンツ履いた兄ちゃんが、空飛ぶ映画じゃないか」と。そうしたら、監督だか主演俳優の来日記者会見の時、「こういう意見がありますが、どうお考えでしょうか?」って、このフレーズをあげて誰かが質問しやがった。おいおい、人の書いたことをダシに使うなよ。その時壇上の人がどう答えたかは忘れたけれど、当時の自分の気持ちとしては本当にそう思っていた。

 アメリカン・コミックを映画にしたわけだから、そのヒーローも原作のルックスを反映したものになって当然。ただ原作を読んでその内容を理解し、世界観に親しんだ読者ならまだしも、東洋の島国に住んでいるこちとらとしては、いかにスーパーマンが国民的ヒーローだと言われようと、やっぱり「赤いパンツ履いた兄ちゃんが空を飛ぶ映画」に過ぎないわけで。そもそもアメコミ映画のヒーローたちときたら、そのルックスがどこか無骨というか野暮というか、無駄に大げさなのがいただけない。洗練されていない。でっかい斧を持った男やら、なぜか口だけマスクから出した金持ちのコウモリ男やら、全身緑色のでっかい半裸の人やら。そうしたことが、ウルトラマンや仮面ライダーで育った世代としては、今ひとつ馴染めなかったことは事実。

 でも映画は面白かったな。1978年版『スーパーマン』も、ティム・バートンが監督した『バットマン』とその続篇も、今やカルトな『フラッシュ・ゴードン』も、ノリントンの『ブレイド』もクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』3部作も大好きだ。ところが現在、年間に7〜8本のアメコミ映画が日本でも公開されるようになったというのに、どーもこの種の映画は食傷気味、苦手分野になりつつある。


●"2作目が面白い"とは言うものの・・・。

 そんな苦手分野克服コースというわけでもないのだが、本書を読むことで、アメコミ映画の歴史やらマーベル、DCといった、今やアメコミ映画を自ら製作するほどになった出版社のこれまでの経緯などを知ることが出来、大変勉強になったし、何よりも面白かった。

 本書の中に「スーパーヒーロー映画は2作目がいちばん面白い」と書かれているが、これはアメコミ映画に限ったことではなく、シリーズ作品はどうしても第1作がキャラクター紹介に比重が置かれることから、本題は2作目に入ってから、というパターンが多い。ところがアメコミ映画の例を見ると、1作目がすこぶる傑作だった『アイアンマン』は、2作目で大きくトーンダウンし(監督は同じなのに)、マーベル・ヒーロー総登場の『アベンジャーズ』にしても、第1作に2作目の『エイジ・オブ・ウルトロン』の出来が及ばないことは否めない。むしろそうした"色々あって、うまく行かなかった2作目"をなんとかやり過ごし、3作目に突入したものに傑作が出てきたのは面白い傾向だ。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のドラマ的深みに喝采を送り、本書ではサービス過剰として芳しい評価をされていない『スパイダーマン3』も、その過剰さが楽しかったりする。まあこのあたりは、鑑賞者の好みにもよるけどね。

 最近のアメコミ映画にちょっとした苦手意識を感じているのは、そうした"1作目の成功"が必ずしも2作目の充実に引き継がれないこともあるけど、そうこうしているうちに『アベンジャーズ』のようなヒーロー集団活劇に突入してしまうことにある。これまで主人公だったヒーローが集団のひとりとなり、存在感が薄くなってしまうことにも躊躇を感じるが、その集団の中に未知のキャラ、主演作を未見だったりすると、そのキャラの個性や立ち位置、役割が今ひとつ理解出来ないことがある。作る側としては、ヒーロー全員の、これまでの主演作を観客が見ている前提で作っているのだろうし、集団化映画を楽しむためにも、ちゃんと見ておけというビジネス戦略なのだろう。


●解説と評価を両立させた、てらさわホーク氏の巧みなタッチ。

 そんな鑑賞野心に乏しい観客が、それまでのアメコミ映画、アメコミ・ヒーローが何たるかを知る意味でも、本書は貴重な書籍と言えるだろう。

 アメコミ映画の歴史的解説の部分では、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのマーベルが1996年にはオフィスのデスクを売らなければならないほど困窮したものの、自社ヒーローを担保に投資銀行メリルリンチから5億2500万ドルを調達し、『アイアンマン』を第1作とするマーベル・スタジオズを設立しヒット作を輩出するあたりが面白い。マーベルは2009年、ディズニー・スタジオに40億ドルで買収されてしまうが、ディズニーとしては自社ブランドが幼児層中心であることから、10代の男子層に多くのファンを持つマーベルの方向性を変えようとしなかったというくだりは、ビジネス小説を読むようで、実に興味深かった。

 そのマーベル攻防記やDCコミックとワーナーの関係性など、最近のアメコミ映画をめぐる紆余曲折は、てらさわホーク氏の文章によって解説されているが、単に事実を網羅するのではなく、裏話も含む数々のエピソードが披露し、その上てらさわ氏が作品をどう評価したかにも言及している。このあたりのバランスは、実は大変難しいのだが(筆者も多々体験済み)、軽快なタッチで「事実」「評価」「解説」を盛り込んでいるあたりは、見事と言えよう。

 欲を言えば、日本でアメコミ映画がどう受け入れていったかについても言及して欲しかったが、そこに興味がある人は筆者が以前書いた、こんな文章を参考にしていただければと思う。

☆アメコミ映画は日本でも、ヒット・ジャンルになるか?
 前編=https://cinema.ne.jp/recommend/ac2016062306/
 後篇=https://cinema.ne.jp/recommend/ac2016062410/

(文/斉藤守彦)

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斉藤守彦(さいとう・もりひこ)

1961年静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、1996年からフリーの映画ジャーナリストに。以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「宇宙船」「INVITATION」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」等の雑誌・ウェブに寄稿。また「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」等の著書あり。最新作は「映画宣伝ミラクルワールド」(洋泉社)。好きな映画は、ヒッチコック監督作品(特に『レベッカ』『めまい』『裏窓』『サイコ』)、石原裕次郎主演作(『狂った果実』『紅の翼』)に『トランスフォーマー』シリーズ。

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