恐るべき不屈のピアニスト、波乱の生涯 『マイ・バッハ』
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「バッハの演奏において、20世紀で最も偉大な奏者」と言われるピアニスト、ジョアン・カルロス・マルティンス(1940〜)の生涯を三人の役者が年代別に演じ分け、描かれる映画である。この演出がとてもいい。三人三様、人間味にあふれるジョアンの人生から目が離せない。
冒頭、病弱なジョアンがピアノを習い始めるところからはじまる。並はずれた才能だと周りが気付くのに、時間はかからない。とんとん拍子に腕を伸ばし20歳でカーネギーホールでのデビューを果たすのだから。この映画ではここまでが序章。そんな彼がいくつもの不幸をどう乗り越え、音楽を究めていったのかを追い続けていく。
才能の芽が出るまでが早くスムーズだっただけに、問題が起こってからのコントラストが激しい。冒頭で、オスカー・ワイルドの「芸術は痛みによってのみ完成される」という言葉が紹介されるのだが、まさにその痛みが身につまされる。
取り憑かれたようにピアノに向かい続けるジョアンは、頑固な芸術肌でありながら、ノリで生きているような側面もあり、そこはブラジル生まれ・ラテンの血筋なのかもしれない。そんな性格がトラブルを手招きしているようで、観ているこちらはハラハラしてしまう。実に激しく美しい人生だ。
劇中のピアノの音はすべて、実際にジョアン自身が演奏したものが使用されている。気になった人は、リオ・パラリンピック開会式での演奏をご覧になることを是非おすすめしたい。きっとこの映画がさらに味わい深いものになるだろう。
(文/峰典子)