犯人はいい人です!『ストックホルム・ケース』
『ストックホルム・ケース』 11月6日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿、UPLINK吉祥寺ほかにて公開
東京国際映画祭コンペティション部門にもノミネートされた『ブルーに生まれついて』のロバート・バドロー監督とその時主演だったイーサン・ホークが再タッグを組んだと聞いてとても嬉しく思った。製作には『ゲット・アウト』『アス』などのヒットメーカ、ジェイソン・ブラムが参加していて、製作陣にはウィル・スミスの会社の名前も連ねている。
本作はスウェーデン史上最も有名な5日間にもおよぶ銀行強盗立てこもり事件が題材となっている(ノルマルム広場強盗事件)。
この事件は、誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることで犯人に対して連帯感や好意的な感情を抱いてしまう現象「ストックホルム症候群」の語源になったと言われている。
日本ではよど号ハイジャック事件の時にこの現象が起きたとされている。
映画を見ている間に鑑賞している私たちまでもこの現象に落ちかけてしまったのでないかと後から気が付いた。例えば、犯人が人質に果物を分け与えるシーンがある。この時人質となった人たちは食べ物を一人で食べずに私たちにも分けてくれるこの人はなんていい人なんだ!という眼差しで犯人のことを見ている。そして、観客は映画の中の人質と同じ目線で犯人を見て鑑賞中は自分も人質の一因にでもなったかのような気分になる人もたくさんいるだろう。食べ物をもらったり、トイレへ行くことを許可してもらっただけでも、長い時間拘束されるとそんな日常では普通のことが出来ることに喜びを覚えて感謝の気持ちが生まれてしまうのだろう。これはきっと人間が生きていく為に自己防衛として本能的にもっているものの一つなのかもしれない。
女性2人が人質になるのだがピンクと水色の服を着ているという点で最初からすんなりと2人の識別ができたり、登場人物が少数のため人間関係も複雑ではなくとても見やすい構成になっていた。音楽にこだわりのある監督らしく劇中にはボブ・ディランの名曲が登場するなど犯人の心情に寄り添った作りになっているのも作品の魅力だ。
サントラもとてもよかったので映画と合わせてお勧めしたいそんな一本だった。
(文/杉本結)
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『ストックホルム・ケース』
11月6日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿、UPLINK吉祥寺ほかにて公開
監督・脚本:ロバート・バドロー
出演:イーサン・ホーク、ノオミ・ラパス、マーク・ストロング ほか
配給:トランスフォーマー
原題:STOCKHOLM
2018/カナダ・スウェーデン/92分
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/stockholmcase/
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