もやもやレビュー

見ればきっと特殊警棒が欲しくなる『ビー・バップ・ハイスクール』

ビー・バップ・ハイスクール [DVD]
『ビー・バップ・ハイスクール [DVD]』
清水宏次朗,仲村トオル,中山美穂,宮崎ますみ,那須博之
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
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 故・那須博之といえば今や伝説的クソ映画『デビルマン』の監督として名高くなってしまったが、僕を含め40代くらいの人間にとっては『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズ全6作の監督といった方が通りがいい。

 現代はハリウッドも邦画もマンガの映画化全盛の時代といって良いが、マンガを映画化する試みは昔から人気の手法だった。その中でも80年代におけるマンガの映画化の最大のヒットといえるのは『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズだ。

 その人気は凄まじいもので、この一作目が公開された1985年ビーバップ映画は当時の中高生たちに、DQNなライフスタイルを提案しまくった。Apple社がMacintoshで新たなライフスタイルの提案を開始した翌年の事だ。そして主役の仲村トオルと清水宏次朗は時代を代表するスターになっていった。

 ソリコミ、短ラン、長ラン、ボンタンそして特殊警棒。この映画を見た当時の中高生は、いきなりニワカにガラが悪くなって映画の登場人物になりきった。

 特に伸縮三段式の特殊警棒がヤバくて、主人公のトオル演じる仲村トオル(これがデビュー作!)が、ここぞという時にシャキーン!と取り出してDQNをシバき倒すライフスタイルがあまりにもカッコよく、当時の子供たちにこれを買い求めるなと言っても無駄なのだった。

 かくして全国各地で特殊警棒をシャキーン!として、手近な人間をシバき倒すという事案が同時多発。あまりにも危険ということで映画3作目からは特殊警棒は登場しなくなり、原作マンガからも使うシーンが削除されてしまったほどだった。

 この僕もビー・バップ直撃世代であって、ブルース・リー、ジャッキー・チェンときて、中学に上がる前にビー・バップだったからたまらない。中学校はすっかりビー・バップ世界観に染まった野郎どもに占拠されていた。
ジャッキー・チェンとかは所詮ごっこ遊びの範疇から抜け出せないけど、ビー・バップは日本の高校が舞台で、なまじっか真似が出来ちゃうから始末が悪いのね。主役二人のモデルの学ランも売られたりして。

 そして現代。おっさんになってから見返すと、意外にもアクションがしっかりしていて驚かされる。やはりジャッキー・チェンのラインの映画だったと再確認。そして仲村トオルが特殊警棒をシャキーン!とするシーンを見てしまうと、ついつい「仲村トオル 特殊警棒」でググって、仲村トオルモデルの特殊警棒の値段を調べたりしてる良い歳した自分がいたりする。そもそも、未だに「仲村トオルモデル」が売られてるのも怖いし、「どこで買えますか?」なんてヤフー知恵袋の書き込みがあるのにもびっくりする。

 映画の内容についても触れよう。2019年になっても(だからこそ?)語り草になってるのは、走ってる電車の車内で乱闘して、窓ガラスを叩き割ってDQNたちを車外に放り出すシーン。しかも電車はちょうど鉄橋の上を走っており、DQNたちは次々と川の中に墜落していく。これ、どう考えても特撮じゃなくて、本当に人を投げ込んでる。

 現代だったらこんな危険な撮影が許可されるわけがない。「嘘だろ?」と目が点になる凄い映像として映画に出てくる。当時も撮影を申し入れたら鉄道会社に却下されて(当然だ!)、なぜか静岡鉄道がオーケーしてくれたので、ビー・バップ映画シリーズは原作無視で静岡県清水市が舞台になったという経緯がある。だから清水市は次郎長とちびまる子ちゃんとビー・バップ映画の街として有名ということになる。

 例の三角マークの東映ロゴが出てから始まる映画本編は、中山美穂とその小さい弟が、立花商業の不良軍団に絡まれるところを、通りかかった主役二人が助けるというオープニングになっている。ここでのDQNたちは、止めに入ったアイスクリーム屋台を大破し、襲いかかってくるという非現実的な社会性の無さを発揮する。それを二人のヒーローが颯爽と現れて、全員ブチのめすという時代劇のような展開。バックには中山美穂の歌うビーバップハイスクールが軽快に流れる。

 たしかに主人公のトオルとヒロシは、漫画でも映画でも、喧嘩が強いという設定ではあるが、はっきりいってここで描かれているほど超人的には強くは無い。那須監督がビー・バップと時代劇の区別がついてなかったとしか思えない。

 この後にも、たびたびそういった破天荒な展開があって、とにかくDQNが群れをなし、家屋を崩壊させながら襲いかかってくるみたいな過激なシーンがやたらある。前述の電車内乱闘のシーンもそうだけど、あまりにも人目を気にしない彼らの劇中の生態が物凄い。不良軍団を、悪の組織か、もしくはゾンビか何かだと勘違いしてるフシもある。まあたしかに悪の組織っちゃあ悪の組織だけど...。

 とにかく、DQNが暴れだすと、一般人や警察なんかは一切消え失せる不思議空間と化す物凄さが確かにある。那須監督は「ストーリーの辻褄よりも、シーンの面白さを優先する」という人。劇場用映画を、バラエティか風雲たけし城くらいにしか思ってないに違いない。そんな感覚のまま撮影したのが、よりにもよって骨太ストーリーの『デビルマン』だったりするからたまらないのだ。

 この映画を現代の視点で観る意義は他にもあって、30年以上前の日本の景色を堪能しまくれる事だ。ロケ地になった清水市をはじめとする昭和の街並み。これが嫌というくらい出てくる。セット撮影がほとんどないような映画なので、とにかく懐かしい貴重な風景の記録もしての意義な凄い。それだけでもこの映画が撮影された意義はあると思われる。ほんの三十数年前は、日本なんかこんなもんだったというのがよくわかる。

 『映画ビー・バップ・ハイスクール血風録 高校与太郎大賛歌』(タツミムック)というビーバップ映画本の決定版ともいえるものが、何故か2019年になって出版されてしまった。全6作品の出演者のうちの存命の方々にインタビューしまくったというとんでもないムック本だ。ビー・バップ世代は絶対に読むしかないし、読むと余計に映画を見返したくなる。
 現代の仲村トオルしか知らないとか、『デビルマン』しか見てないという人にもぜひ観て欲しい。ハマる人は今更ハマるかもしれん。特殊警棒を検索し始めるかも...。

(文/ぶたお)

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