『キラーコンドーム』コンドームから見えるお国柄
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英国の評論家コリン・ウィルソンは芸術家たちを論じた『アウトサイダー』の中で「芸術家は意図して作品を作っているのではなく、彼らの目には見えたままを形にしているに過ぎない」という趣旨の言葉を述べている。
この考えが正しいとすると、漫画原作の本作を制作した監督には、コンドームがどう見えていたのだろうか。装着したコンドームにペニスを食いちぎられる映画を作ろうという発想は凡夫凡婦には理解できない。理解できたら見事「アウトサイダー」の仲間入りで、カッコーの巣の上の住人になってしまうだろう。
散々評論されB級映画の傑作として名高い本作を今更普通に論じてもつまらない。大体、星の数ほどある駄文を今更一つ増やしたところで益はない。
そもそも、巨根でゲイの刑事がコンドームに睾丸を噛み切られ復讐のため、捜査に執念を懸けるなんて話の比喩や作品性を論じること自体、本作の監督よりオツムが煮えている。おまけにキラーコンドームを作ったのは性を嫌悪する潔癖症のクリスチャン女性。下手にこの手の政治的かつ宗教的な問題に触れることは危険を孕んでいるので詳細を避ける。
おそらく監督は、様々な皮肉をB級映画というオブラートに包んだと思われるが、そういう真面目な話を本作でしたところでどうしようもない。問題はコンドームの存在だけである。
米国のコンドーム消費量はおよそ4億個で世界4位、日本は5億8千個で3位なのだという。人口で比較すると、米国の数は決して多くない。つまり、コンドームはそこまで普及している訳ではないと思われる。ゆえに、こんなトンデモ映画ができ上ったのだろう。滅多に使わないものは人に恐怖を与える。コンドームは怪物となる想像の余地があるということだ。
余談だが、米国人の男性ばかりと付き合う数人の女性は口をそろえて「彼氏はコンドームが嫌いでピルを服用してほしいっていうの」と嘆いていた。数少ないサンプルで結論を出すことは愚の骨頂だが、米国ではピルの使用が一般的な社会なのだろうという想像はつく。
ちなみに日本のコンドーム消費量は5億8千万個と世界3位だ。1億3千万人と米国よりはるかに少ない人口でこれだけの数を使用しているのだから、我々にとって本作はアホ映画にしか見えない。本国の米国でもおそらく同様だろうが、捉え方は日本人と異なっているのではないか。コンドームがマイナーな存在だからこそ「ペニスを食いちぎったら面白いかな?」という発想が生まれる。邦家でそんな発言をしたら女性からは総スカン、男性はよくて苦笑い、下手すれば女性蔑視の人物として軽蔑される。ロクなことが一つもない。
日本でも本作のような映画が人気を博したら「もしこれがキラーコンドームだったら大変なことになる!」と熱弁を振るって何とかナマでコトに至れる可能性がわずかにあったかも知れないのに。非常に残念である。我が国でもマルティン・ヴァルツのような監督が生まれ、筆者のようなボンクラたちに「コンドームは危険だ! 食われるぞ‼」と啓発してもらえないだろうか。まぁ、無理だな......。
(文/畑中雄也)