インフレした暴力を眺め暗い歓びに耽る『渇き。』
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- ギャガ
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初見で『渇き。』を鑑賞しただけではこちらの頭の問題か、映画の構造の問題か知らないが何が何だか分からなかった。ジェットコースターに揺られるような感覚で約2時間が終了。忙しい人間だったら困るのだろうけど、何度も鑑賞して自分なりの面白さを見つけるというのも映画の楽しみ方である。
矛盾点や齟齬を言い立てても意味はない。そう言ったものにケチつけるのも歓びではあるが、それ以上に濁流のように押し寄せる暴力描写に流された方が面白い。
原作『果てしなき渇き』(深町秋生著)を補助線に持ってくれば、理解が早いのだろうが小説自体2005年発行で『このミステリーがすごい!』大賞受賞の作品を今更あれこれ分析しても......。そんなのはとうに誰かがやっている。映画も14年公開だし。
ストーリーをザックリとかいつまむと、男女問わず慕われ成績優秀な娘が失踪。離婚した元妻から相談を受け、元警察官の主人公が足取りを追っていくうちに両親も知らない娘の別の顔が明らかになっていく、というもの。
ネタバレの映画レビューが数多ネット上に溢れているので詳細を書いても差し支えないのだろうが、内容を延々と書いたところで(書く側が)つまらない。
失踪した娘を探す名目で元妻の家に転がり込み元妻をレイプ。「愛している」と言いながら顔面グーパンチ。そもそも、娘が失踪したとの相談を受けコンドームを持っていく段階でどうにかしている。公式サイトには「ロクデナシ」とあるが、そういうレベルではない。
暴力描写はさらにインフレを起こし、基本は血まみれ。敵対する人間や関係する人間も血のりでイッパイ。主人公と遭遇した女性の大体が何かしらの暴力にさらされる。しかもテンポよく。もうギャグの域に達している。
無論、映画の本筋は暴力ではないのだが、上記のような状況なので差し引いて映画を観ることは不可能。ストーリーと分かちがたく結びついているため避けては通れない。つまり、暴力描写が苦手な人間には向いていない。
暴力が何かの比喩なのかも知れないが、そんなことはどうでもいい。実際に振るったら社会生活が終わるのが暴力。それを映画で発散できるのだから、難しく考えず単純に楽しめばいいのではないか。
誰かに「この映画が好き」という場合は、アレコレ理屈をつける必要はあるが「友達がいない」という本サイトのコンセプトでは話す相手もいないことだし、暗い歓びに溺れるだけでいいような気がする。
(文/畑中雄也)