ロウ・キーに相通じる無駄にカッコイイアクションが炸裂する怪作『シックス・ストリング・サムライ』
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製作の経緯や実態もひっくるめて「よく完成したもんだな」といえる作品に出会えると嬉しくなってしまう筆者ですが、今回ご紹介する『シックス・ストリング・サムライ』(1998)もそのひとつ。
監督のランス・マンギアが、大学の卒業制作として企画を立ち上げ、香港映画の端役をこなしていたという友人ジェフリー・ファルコンを主演に迎え、カルフォルニアの山岳地帯にあるデスバレーに乗り込み勢いで撮影開始。
しかし、甘い見通しの計画により作業は思うように進まず、親類縁者の資金は底に尽き、挙句、デスバレーは国立公園故に管理が厳しく、立ち入り禁止区域に無許可で入って追放処分に! この時点で撮影は全体の3割も進まず......。
まさに絵に描いたような"低予算映画あるある"。プロレス界でいえば"勢いで新団体を作ったけど、資金不足で自然消滅"と同義でしょうか。
ところが本作の場合は、監督の過去の別の作品がサンダンス映画祭で注目され、新興プロダクションから資金を得て、見事、完成に至ります。
1957年に核攻撃に晒され、ソ連の占領下となって40年。荒野と化したアメリカに唯一残されたユートピア「ロスト・ベガス」。だが、統治者キング・エルビスが死に、新たなキングが求められていた、というのが大きなスジ。
主人公は、6本弦の幻のギターとそのギターに貼り付けた刀を駆使する、孤高のギター侍・バディ。とある目的を持って、キングへの道を目指します。
バディはなし崩しに相棒になる少年と共に、いかにもヤラレなボウリングトリオや世紀末な蛮族たちをバッサバッサと斬り倒します。そして、1957年以来、弾薬切れでただの山賊となったソ連兵(60代以上の爺さんじゃないとおかしいけど、アレッ?!皆さん若い!)相手に完全無双。
なにやら因縁のある敵役「デス」との一騎打ちはギターバトルを経て、少年を守った際の手負いのままソードバトルに突入するのですが......。
いわゆる『子連れ狼』テイストの武侠系ロードムービーなのですが、終始BGMとして流れる(スターリンとプレスリーを敬愛するバンド)「レッド・エルビス」によるロカビリーサウンドが妙なテンションを演出。
さらに主演のファルコン先生は、マスオさん的風体ながら(実際のコンセプトは50年代のロカビリー音楽家、バディ・ホリー)、カンフーも殺陣も無駄にキレがあって、この手のジャンルモノが好きな向きにはカッチリハマるであろう出来栄え。
また、ファルコン先生のアクションと所作は、プロレス的にいうと、シャープな動きと脅威の身体能力で知られるロウ・キー(WWEでは「カヴァル」)にも通じるモノがあり、「なんだか知らんがカッコイイ!」と思えてくる辺りもステキ!いい。
BGMとファルコンアクションの存在によって、似た世界観を持つ、奇才アレハンドロ・ホドロフスキーの『エル・トポ』に比べると随分取っ付き易い印象です。意識高い系の理屈っぽいコメントよりも、この映画バカだなぁとシンプルに褒めたくなるワケですね。
どんなに褒めても低予算感と雑味は満載なため、好き嫌いがハッキリ分かれるタイプの作品ですが、筆者は勿論イチオシです。