中盤やられて、後半に快勝するプロレス抗争的味わいが楽しめる、清順美学の変わり種『東京流れ者』
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坂本九の『上を向いて歩こう』(1961)や、近年ではドリカムの『未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』(2007)など、歌謡曲や流行曲をタイトル、もしくは題材そのものにした"歌謡映画"。今でこそ少なくなりましたが、国内では特に1950年代から60年代に多く製作されたそうな。
主演を張る若手スターの売り込み、ヒット曲人気に便乗するなどの特性上、量産型のいわゆるエクスプロイテーション的なジャンル映画として捉えられることも多く、タイトルだけの箸にも棒にもかからない作品も多かったようです。
とはいえ、こうした消費物的なジャンルの中にも野心的な作品もあるワケで、そのひとつが『東京流れ者』(1966)。
主演は当時まだ日活の若手スターだった渡哲也。渡御大が唄う同曲の歌詞を担当した川内康範が原作という形で、監督を日本の奇才・鈴木清順が務めています。
モダンでカラフルな60年代の作品群と較べても、飛び抜けて異彩を放つ作風は「清順美学」と賞賛されましたが、本作では、当時人気の任侠無頼モノ、そして歌謡映画にその作風が混ざり合い、魅惑のヘンテコ世界が広がっているのです!
渡御大演じる凄腕の元ヤクザ「不死鳥の哲」は、元親分の倉田の懐刀として、不動産トラブルの解決を要請されるが、倉田の不動産を狙う大塚組の謀略により、命を狙われることに......。後ろ盾として哲をサポートする倉田も不可解な動きを見せ始め......
とまあ話のスジは義理人情の任侠モノなのに、リアリティよりもインパクト&シュールを重視した清順美学により、任侠映画にありがちな泥臭さは希薄。それはまさに本作が影響を与えたとされるTVアニメ「ルパン三世」(※)のような、シャレオツなテンションと世界観なのです。
大塚組が地方の倉田一門の屋敷を襲うシーンでの、まるで欧米製作の作品かのような勘違いジャパンな謎間取りの屋敷は秀逸。作中での重要な舞台となる「CLUBアルル」も、どこのスタジオだよとばかりの巨大な空間でクラブ感はゼロ。クライマックスでは前衛的で無機質な空間となり、シュールを通り越して格好良く見えてくる不思議!
加えて、良いタイミングで主題歌「東京流れ者」がBGMとして掛かり、哀愁を運んでくるワケです。
それでいて、男同士の対決を印象的に描いているところが憎いところ。
一人目のライバル「蝮の辰」に追い詰められた哲の背後に蒸気機関車が迫るシーンでは、その結果を映像にせずに、その後、瀕死になりながらも追いすがる敗者としての辰に気圧された哲が不覚を取ります。
後の傑作『殺しの烙印』同様、ライバルとの闘いに主人公が怖気づいたり、傷を追うけど、最後は快勝という展開が気持ち良いのです。
プロレスでも、無双型の新人よりも、苦労してチャンスを掴む新人の方が人気を掴みやすい傾向があります。鉄人と呼ばれた小橋建太も、全日本プロレス新人時代当初は手も足も出なかったスタン・ハンセンやテリー・ゴディら外国人選手勢に勝ち始めるようになってから人気に火がついています。
てなワケで、歌謡映画という俗物的作品故、清順作品群の中でも指折りに入る本作。今見ても不思議な吸引力を持つ作品としてオススメの一本でございます。
(文/シングウヤスアキ)
※ 同じく"元ネタ"とされる『黄金の7人』に比べると、劇中で登場する「サカイ刑事」の衣服が完全に銭形のとっつぁんだったりと、衣装面でのインスパイアが顕著です。