インタビュー

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住んでみたくなる、『秋刀魚の味』な駅。

〜ロケ地探訪『秋刀魚の味』

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 小津安二郎監督の遺作『秋刀魚の味』(1962年)。最後まで秋刀魚は出て来ませんが、そのほろ苦さが人生に例えられているそうです。そんなタイトルからして実に味わい深い本作のロケ地のひとつが、東急池上線の石川台駅。

 目黒と蒲田を結ぶ小さな路線の中程にある、とても小さな駅。そのホームに、岩下志麻が片思いの人とふたりで佇むワンシーンは、とても印象的です。恋に胸膨らむ、ときめきに満ちた幸福感。後に切ない幕切れになってしまった儚さを思うと、余計にそのワンシーンが素敵に見えます。すごく短いシーンだけれど、なんとなく脳裏にこびりついて離れない。不思議なシーンです。

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 そんな石川台駅。映画公開から40年以上が経った今、降り立ってみると、映画の中では灰色だった石の柵が真っ白の鉄製に変わっていたり、当たり前ですが、ずいぶんと現代的になっていました。けれど外から見てみると、ホーム全体の雰囲気はほとんど変わりがなくて、静かな興奮を覚えます。

 駅の近くには、山田洋次監督の『おとうと』のロケに使われた、石川台希望ヶ丘商店街があります。八百屋、魚屋、蕎麦屋に中華屋におにぎり屋。小さなお店が並ぶ活気ある商店街です。コンパクトでほのぼのしていて、下町ともちょっと違う緩やかな生活感が漂う石川台。小津監督や山田洋次監督に愛されるのもわかる気がする、住みたくなる街でした。

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(文/根本美保子)

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