障害者の性への理解を訴え続けている活動家の熊篠慶彦氏の、実話に基づく物語を映画化した『パーフェクト・レボリューション』。自身も脳性麻痺を抱える熊篠氏をモデルとした主人公クマを、氏の友人でもあるリリー・フランキーさんが演じる、『最強のふたり』にも通じるような激アツ映画です。障害がテーマというと、重苦しく考えてしまいがちですが、見ているうちにそんなフィルターはどこへやら。型破りで、どこまでもピュアなふたりの恋と愛が、私たちにくれるものは計り知れない。とてもインパクトの大きな映画で、特に心が弱っているときに観ると涙腺崩壊してしまいます。
そんな本作で、クマと恋に落ちる美少女ミツを演じた清野菜名さん。映画『TOKYO TRIBE』(2014)のヒロイン、TVドラマ『トットちゃん!』(テレビ朝日系で10月スタート!)主演(黒柳徹子役)など、めざましい活躍をされていますが、本作では髪をピンクに染め上げ、精神に障害のある破天荒な女の子を見事に演じています。『パーフェクト・レボリューション』というガッツなタイトル通り、前向きなメッセージに満ちた映画のこと、清野さんにたっぷり伺いました。
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──感情の振り幅が尋常でないほど大きなミツという女の子。どんなことを心がけて演じましたか?
「台本をはじめて読んだときから、読みながら自分の頭のなかにミツがいました。書かれている文字通りに、頭のなかでミツが動いて、すごくイメージが湧きました。そんな感じだったので、キャラクターづくりについての苦労はまったくなく、そのまま自然とミツになれました。あと、これはどの役でもそうなんですが、撮影がクランクアップするまでは、できるだけ役の人物と同じ感覚でいたくて、家に帰ってもその感覚を忘れないように、ミツとして私生活を送るような気持ちで過ごしていました。面白かったり、楽しいことがあったときも、自分ではなくミツのテンションで笑う。いつもより感受性も高まっていたので、周りは超大変だったかもしれません」
──ミツは見た目もすごいパワフルですが、見た目のキャラクターについて監督とも相談されたりしましたか?
「役としても人としても激しい人だから、黒髪ではない気がするんです、っていう話を監督として。それで何色がいいかふたりで話して、金髪ではないと思うしピンクとか?って言ったら、それがそのまま実現しました。その髪色をピンクにするということも、自分のなかでミツに切り替わるポイントとして重要でした。撮影の2週間くらい前に色を抜いて染めて。落ち方も知りたかったし、落ちたときの改善点も見つけたくて。ピンクはすぐに落ちてしまうので、いつも行っている美容師さんにトリートメントの中にカラー材を入れてもらって、落ちないようにキープしていました。普段はピンクなんて絶対にできないので、気持ちも変わるし、楽しかったですね」
──実際の撮影で、リリーさんとの化学反応で、ミツのキャラクターが変わっていくことはありましたか?
「リリーさんもわたしも、初日からなぜか関係ができあがっていました。やりやすいように工夫することはありましたが、化学反応で変化するというよりは、一緒にやることでパズルが完成するような感じでしたね」
──リリーさんとは初共演?
「お会いするのも初めてでしたので、ミツとクマピーの関係をつくるために、私のほうからいろいろ話しかけました。そうしたら自然と仲良くなっていましたね。初日から最後まで、友達以上恋人未満というくらい仲が良かったです。恋人同士って、ふたりにしかわからない感情があると思いますが、それがリリーさんとの間にはあったように思います」
──現場ではどんなことを話していたんですか?
「なんでもない会話で笑ったりしてましたね。関係性がそうなっていると、別に面白くないことでも笑えたりするじゃないですか。そんな感じです。松本(准平)監督にいたずらすることもありましたね。監督はけっこう人見知りで、恥ずかしい部分を絶対に人に見せないタイプなんですが、クラブのシーンで監督がひとり自販機の裏で踊っていて。それを動画に撮って監督に見せてみたりして(笑)。<えぇぇ、なんで〜撮らないでよぉ〜>って焦っていました(笑)」
──特に印象に残っているシーンはありますか?
「わたしの一番好きなシーンでとても心に残っているのが、ラストのほうでリリーさんと踊るダンスシーンです。そこにはリリーさんと私にしか感じられないような感情が確かにあって、カメラがまわる前、現場に入った瞬間から自然と涙が出そうになりました。本番まで我慢してためとかなきゃ!というくらい。それで、リリーさんに<めっちゃ泣きそうなんですけど>って言ったら、<わかる、オレも>って。そのときは不思議な感情がお互いのなかに芽生えていたと思います。お互いに前を向いて、いろんな壁を乗り越えよう挑戦してきて、いろんな感情がいっぱいいっぱいになったシーンでもありました」
──クマのモデルでもある、原作者の熊篠さんともお話しされたんですか?
「熊篠さんも毎回現場に来てくださって、いろいろお話ししました。脳性麻痺と聞くとすごく重い症状のように感じますが、みんなが思っているようなものではないとはっきりわかりました。本当に普通の人。私は逆にそういう風にしか見られませんでした。なおかつ熊篠さんはとても明るい人でもあって。現場でも、まるで友達と一緒にいるような感覚で、他愛のない会話を楽しみました。友達との会話って、その場その場で終わるあまり残らない会話じゃないですか。本当にそんな感じの普通の会話。あと、先ほどのダンスの練習のときは、リリーさんがいなかった日にも熊篠さんが来てくれたので、熊篠さんと一緒に練習したりして。膝の上に乗ったりもするんですが、それも熊篠さんと練習しました」
──ああいう風に生きられたらなって思うくらい、ミツはとても魅力的な女の子だと思いますが、ミツから影響を受けたことはありますか?
「ミツという役を演じたことによって、私自身の仕事に広がりが生まれたと思っています。これまでは、たとえば暗さを秘めた役でも、それをずっと内に秘めて、口数が少なくコミュニケーションもとらないような役を演じることは多くありました。でもミツのように、ゼロと百の感情の振り幅を一気にやることはありませんでした。ゼロの部分はなんとなく想像できたのですが、百の明るさは本気で発散してやってみないとわからない。でも今回は、自然とミツになれていたこともあって、なにもブレーキをかけずに出すことができて。その振り幅を知れたのは大きかったですね。ミツを演じるまではコメディはちょっと苦手だったのですが、そこで振り幅を経験したことで、別の仕事にも生きている感じはしますね」
──ミツの好きな台詞はなんですか?
「<不可能を可能にしろ>っていう台詞は好きでした。わたしもどちらかといえば、自分の好きなものなら努力して成功させたいと思うので、その言葉は自分自身にもすごく響きましたね。ミツは前向きな台詞が多かったです」
──監督もこの言葉を映画のテーマだと語られていました。それは別に合言葉になっていたわけではなく、自然と共有されている感じなんでしょうか?
「自然と、だと思います。だから観ている人も自然とそう思ってくれたらうれしいなって。勇気が湧く言葉ですよね。がんばったら可能になる気がする。後ろ向きよりも前向きに考えたほうが、物事もうまくいくような気がするし!」
──ところで、清野さんは観る側としてはどんな映画が好きですか?
「最近よかったのは、少し前に観た『サニー 永遠の仲間たち』という韓国映画です。すべてが完璧で、めちゃくちゃいい。女の子たちの友情が描かれていて、子ども時代と大人時代と、交互にストーリーが進んでいくのですが、全体のつくりがすごくおしゃれ。そして一人ひとりの女優さんとキャラクターがぴったりで、全然知らない女優さんなんですが、この人じゃないとできない役だろうなって思わされる。本当にこういう人たちがいると思わされるんです。女の子たちがみんなかわいくて、こういう青春時代を送ったらすごく楽しかっただろうなって。劇団☆新感線のいのうえ(ひでのり)さんが大好きな映画と聞いて、わたしも劇団☆新感線の稽古中に観ました」
──最後に、映画を楽しみにしている方へメッセージお願いします!
「愛の形って人それぞれだと思うのですが、この映画のふたりのような形って、普通に生活しているなかでは感じることのできないものだと思います。もし、ちょっとしたことで悩んでいるのだったら、これを観て、こんな形もあるのだということに触れてほしい。愛は理論じゃない。きっと愛を、もっと大きな目で捉えることができると思うんです」
愛について考えさせられると同時に、観たことのない清野さんを観られる映画でもあります。そしてなんだか泣けてくる。『パーフェクト・レボリューション』は9月29日(金)より公開です!
(写真/金谷浩次 取材・文/根本美保子)
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『パーフェクト・レボリューション』
9月29日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
監督・脚本:松本准平
企画・原案:熊篠慶彦
出演:リリー・フランキー、清野菜名、小池栄子、岡山天音/余貴美子
制作・配給:東北新社
2017/日本映画/117分
公式サイト:perfect-revolution.jp/
©2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会