インタビュー
映画が好きです。

VOL.32 村上虹郎さん

生きていて、なかなかこういう出会いってないと思うから。

藤沢周氏の小説『武曲』を原作に、熊切和嘉監督がメガホンをとった映画『武曲 MUKOKU』。現代版剣豪映画にして、現代日本版『スター・ウォーズ』とも言える、"剣"を通じた男同士の熱い闘いが話題を呼んでいます。本作で、主演の綾野剛さんの相手役として、天性の"剣"の才を持つラップ好き高校生・羽田融を演じた村上虹郎さん。剣を棄てた男と、剣に出会った男。ふたりの男の魂を揺さぶるようなぶつかり合いを、等身大で演じきる凄さ、半端ない! 映画の裏側を、虹郎さんに伺いました。


◆◆◆

──ラップのリリック作りに夢中な高校生が、剣に出会う。どのように役と向き合っていきましたか?

「天才剣士の役と言われるけど、ほんとに天才役なのかな。それは僕のなかで今でも定かではないです。大して意味もわからない単語、純粋に言葉というものに興味を持つということ。それ、不思議と気持ちがわかるんです。高校時代に僕も、言葉を連ねたくなる時期がありました。でもそれって、周りから見ると異様な人に見える。メンヘラのようにも見えて、実際に融(村上さんの役名)はそういう扱いもされているんだけど。ただ融が周りと違うのは、台風の洪水で死にかけた経験を持っているということ。彼のように身近に死を感じたことのある人間って、ちょっと価値観が変わりますよね。たいした違いではないんだけど、ちょっと違うだけで、進む方向が変わる。そういうことだと思うんです」

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村上さん演じる羽田融(映画『武曲 MUKOKU』より)


──本作での融はある意味"ヒロイン"ともおっしゃっていましたが、綾野剛さん演じる矢田部研吾との関係性についてお聞かせください。

「ここまで体が震え上がるような存在って、自分にとっては親父と母親くらいなものです。それくらい、生きていてなかなかこういう出会いってないと思うから、彼らは出会ったことが嬉しくてたまらないんだろうなって思うんです。毛穴が全部開くようなぞくぞく感を味わってる。僕も今、東京にひとりで住んでいますが、たまに母親とかに会うと、よく喧嘩するんです。でも、"うるせー"って怒りながら、そんなに簡単に怒れる人、そんなに心を許せる人っていないんだなって、気づかされる。融と研吾も、そんな風に理性の境界線を超えて出会っているのだと思います」


──そんな研吾との10分間にわたる決闘シーン。どんな楽しさがありましたか?

「とにかく、矢田部家のロケーションがよかった。すごい庭なんです。現地に行った瞬間に、"これはすごいものができる"と思いましたから。映画ってやっぱりロケーションが大事だと思うんです。実際の撮影では、やりたいようにやらせてもらっていました。勝手に跳ねて、勝手に怒って。あのシーンではあまり演出を受けた記憶がないです。監督もうっきうきしているんです。"いっすねぇ!"みたいな(笑)」

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Photo by Ryosuke Iwamoto


──念願の熊切作品への出演だったとか?

「そうですね。監督は僕の両親と変わらないような年齢ですが、僕なんかよりずっと子どもの顔をする瞬間があるんです。たとえばさっき話した決闘シーンの時とか。それに、この作品のために鎌倉の近くに引っ越したそうなんです。そんな人いる?って思うけど、それだけでもう、好きです。僕自身も今回は(撮影地の)鎌倉の安宿に長いこと住み込みましたが、撮影の間ずっと自然体で演じられたことは、その環境も大きかったと思います」


──綾野さんとも初共演。影響を受けることはありましたか?

「熊切監督の映画って、あまり見た目を作り込むようなイメージがないのですが、綾野さんはビジュアルも含めて絶対的に大事なものを作り込んできた。ストイックといったら簡単な言い方ですが、その精神はやはりすごいなと思います。綾野さんは僕に"引き出してくれた"と言ってくれましたが、むしろ逆だなと思っています」


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綾野さんと村上さんがぶつかり合う、クライマックスの決闘シーン(映画『武曲 MUKOKU』より)

──本作ではラップ、ドラマ『仰げば尊し』では吹奏楽、次回作の主演映画『二度めの夏、二度と会えない君』(9月1日<金>公開)ではギターと、音楽にまつわる作品が多いですね?

「あまり意識はしていなかったですが、確かにそうですね。もともと映画の世界に入った理由のひとつに音楽があるんです。音楽も好き、写真も好きで、最近になって芝居も好きになってきた。もともとは芝居には興味がなかったですが。だから映画という総合芸術の中で音楽と関われることは、とても素敵なことだなと思っています」


──最後に、好きな映画を教えてください。

「『ギルバート・グレイプ』ですね。ジョニデの葛藤と、ディカプリオのバランス。そして、ジュリエット・ルイスの存在。あそこまで短髪の女性に興味はなかったんですが、でも、あの映画のあの女性に会いたい。ああいう女性に出会いたいんです。わかりませんか? 本人は美人で自覚もしているわけですが、外見というのはいずれ朽ち果てていくものだから、はなから外見の美しさなんてどうでもいいと言っている。ああいう女性、現れないかなぁ。
俳優になる前は、映画好きという感じではなかったですね。小さい頃によく観ていた映画といえば、『トイ・ストーリー』と黒澤明とジャッキー・チェン。青春時代には『ルーキーズ』や『BECK』を観てきて、今、ここにいる。すごく不思議な感じがします(笑)。ただ、上京してからはたくさん映画を観ています。熊切監督と初めてお会いしたのも映画館。ジャ・ジャンクーの『罪の手ざわり』を観に行った時でした。名画座に行ったら橋本愛さんがいて、ロマンポルノに行ったらまた橋本愛さんがいて。映画はやっぱり、好きですね!」

村上虹郎さん、ありがとうございました!

写真/岩本良介 取材・文/根本美保子
スタイリング/松田稜平(PERIMETRON) ヘアメイク/TAKAI

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『武曲 MUKOKU』
6月3日(土)より全国公開!

監督:熊切和嘉
原作:藤沢周『武曲』(文春文庫刊)
出演:綾野剛、村上虹郎、前田敦子 ほか
配給:キノフィルムズ

2017/日本映画/125分
公式サイト:http://mukoku.com
©2017「武曲 MUKOKU」製作委員会

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村上虹郎(むらかみ・にじろう)

1997年、東京都生まれ。カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品『2つ目の窓』(14/河瀨直美監督)で主演を務め、俳優デビュー。この作品で高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。最新作として、『二度めの夏、二度と会えない君』(9月1日<金>公開/中西健二監督)、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(9月公開/廣木隆一監督)、『Amy said』(9月公開/村本大志監督)が控えている。その他の代表作に、『忘れないと誓ったぼくがいた』(15/堀江慶監督)、『ディストラクション・ベイビーズ』(16/真利子哲也監督)、ドラマ「仰げば尊し」(TBS)など。

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