インタビュー
映画が好きです。

Vol.11 長谷部守彦さん(映画監督/クリエイティブディレクター)

50歳で映画監督デビュー。 クリエイティブディレクター・長谷部守彦氏に聞く、 初監督作『荻原郁三、六十三才。』ができるまで。

本業は、広告会社のクリエイティブディレクター。TVCMを中心に、新聞や雑誌などの広告を手掛けている長谷部守彦さん。20代の頃から胸に秘めていた「映画を撮りたい」という想いを、30年越しで現実のものにした長谷部さんに、初監督作となった寿司エンターテイメント映画『荻原郁三、六十三才。』ができるまでを伺いました。

──50歳にして映画監督デビューしたワケを教えてください。

「いわゆる"映画狂"と言われるようなマニアックなタイプではないですが、昔から映画は大好きでした。いつかは自分で撮ってみたいという気持ちは20代の頃からあったけど、忙しさにかまけて時は過ぎ、そんなこと言ってた時期もあったなぁなんて、過去の思い出になりかけていました。

そんななかで、改めて映画を撮ろうと思ったのは、今から5年前の2009年。古くからの友人である五王四郎(本作主演)と久しぶりに酒を飲んでいた時、彼が言ったひと言がきっかけでした。"俺は65歳までに代表作を演る。お前、書いてくれ!"。彼の熱い想いが、心の片隅にあった作りたいという気持ちに一気に火を付けてくれたんです。

その後は、寝る間も惜しんで脚本を書き上げて、役者を集めて読み合わせ。スポンサーが見つかるわけもなく、製作費は超低予算。仲間でお金を出し合って撮影に向かいました。Canon5Dで撮影、編集もファイナルカットを使って自分でやりました。2009年5月にクランクインして、ロケ地のお寿司屋さんの週一回の定休日に撮影を重ね、途中何度も挫折しながら最終的に仕上がったのは3年後の2012年4月。完成後は数々の映画祭に応募して、結局、カナダ国際映画祭をはじめ、海外の6つの映画祭で受賞またはオフィシャルセレクションに選ばれました」

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──会社員としての本業と映画監督、二足のわらじは大変でしたか?

「映画作りは、本気の部活みたいな感覚でした。有給休暇や土日など、空いている時間を使って、本業とは完全に切り分けて。何度も挫折したしもちろん大変な作業ではあったけど、苦しいと思ったことはないですね」

──シャッター商店街で店を営むこの道40年の寿司職人が主人公。腕は確かだけれど、店は閑古鳥。いつ潰れてもおかしくない状況の中で、外資系の大型回転寿司チェーンから「銀座に新しく出す大型高級店の店長として来て欲しい」とのオファーを受ける。悩みに悩んだ末に断るも、「臆病な腰抜け」と罵られ一日限定でカウンターに立つことに。「本物の寿司を見せてやる!」と息巻いて乗り込むも、大きな挫折を経験し......というストーリー。リアルにありそうな話ですが、モデルにした寿司屋はあるのでしょうか?

「ストーリーは完全にオリジナル、モデルも特にありません。ロケ地としてご協力いただいた福寿司(品川区二葉)さんは、実際にはとても美味しくてちゃんと流行っているお寿司屋さんです。ご主人がとってもいい方で、監修と手元の演技にもご協力くださいました。一瞬だけ後ろ姿も出ているんですよ」

──どんな映画を目指しましたか?

「僕が好きなのは、結局『ビバリーヒルズ・コップ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』など、観る人をスカッとさせ、元気づけてくれる映画。ハリウッドとは規模も雰囲気も違うけど、この映画も、"たまたまひとりで名画座に観に行ったら、すごく元気が出る映画だった"なんて言ってもらえるような仕上がりを目指してました」

──最近観た中で良かった映画は?

「去年の作品ですが『横道世之介』です。何も起こらない映画なんだけど、そこには愛おしい人間たちがいる。見終わったあと、大切な友達に出会ったような感覚になりました。ひとりで観に行ったんですが、帰りに入った餃子屋で急にこみ上げてきて、泣きながら餃子を食べたという思い出があります。次点は『キック・アス ジャスティス・フォーエバー』かな。一作目と甲乙付けがたい面白さでした。グロくて怖いけどエキサイティング! コミック的な世界観が、どんどん現実のものになっていく。そのスピード感が猛烈に気持ちいい」

──ちなみに長谷部監督が好きな寿司ネタは?

「赤身とコハダです」

(取材・文/根本美保子)

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『荻原郁三、六十三才。』
7月5日(土)より六本木シネマートにて公開

腕には自信ありの頑固な寿司職人が、明日にも潰れそうな自身の店を守るため一世一代の踏ん張りを見せる63才の痛快青春ムービー。

監督:長谷部守彦
出演:五王四郎、高桑香織、井上康ほか

Facebook:https://www.facebook.com/ogiwaraikuzo63

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長谷部守彦(はせべ・もりひこ)

本作で監督デビュー。本業は会社員、仕事を通じて知り合った仲間たちと今回の映画を製作。主演の五王四郎とは20年来の友人。五王から「65才になるまでにブレイクするための方法を考えてくれ」との相談を受けた夜に、この映画のヒントを得る。出演者として、外資系社長・木山を演じる。製作・撮影・編集を兼任。

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