インタビュー
映画が好きです。

Vol.08 藤井道人さん(映画監督)

伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』でメジャー映画初監督! 才能溢れる若き新鋭、藤井道人監督が語る好きな映画

父親4人に息子1人。そんな超変わった家族が主人公の、伊坂幸太郎さんのベストセラー小説『オー!ファーザー』がついに映画化。伊坂作品3作目となる岡田将生さん主演というニュースはもとより、若き新鋭・藤井道人さん(28歳・イケメン!)の監督抜擢も話題になっています。というわけで今回は、藤井監督に『オー!ファーザー』のこと、そしてご自身が好きな映画の話などを伺ってきました!

──伊坂作品はほぼすべて読んでいるという藤井監督。原作『オー!ファーザー』の魅力って何ですか? 「伊坂先生の作品はどれもサスペンスの部分が本当に面白くて大好きなんですが、なかでも『オー!ファーザー』には"伏線の張り方の美学"というものを感じます。さりげなく散りばめられた伏線が、どんどんひとつのストーリーとして繋がっていく楽しさ。今回、脚本も書かせていただいているんですが、この見事な伏線の美学だけは絶対に崩さないことが生命線だ!と思いながら書きました」

──脚本依頼があったのは、大学生の頃だったそうですが? 「大学(日大芸術学部)では映画を学んでいて、脚本家を志していました。とはいっても、学校にもろくにいかずに外で仕事ばっかりしている学生で。ご縁があって奥山和由さん(本作プロデューサー)の下で映画の原作本をプロット化するアルバイトをさせてもらっていたんです。そこで何本も何本もプロットを書かせてもらって、大学卒業間近になった頃。"そろそろ脚本を一本書いてみるか?"って、奥山プロデューサーから渡されたのが『オー!ファーザー』でした」

──どんなことを意識しながら書かれてたんですか? 「伊坂先生の原作にあるサスペンスの伏線のラインを一番大事にしながらも、単なる小説の"要約"にならないように。なぜ映像化するのか?ということはすごく考えましたね。そんななかで、泣く泣く好きなキャラクターとかも切っちゃったりしました。一番、断腸の思いで引退していただいたのが、殿様です。原作では学校のカースト制みたいなものもけっこうちゃんと描かれていて、それと4人の父親という対比がまた面白かったりするんです。でも、100分ちょっとの映画の中にいろんなものを盛り込みすぎると、本質が見えなくなるんじゃないかという懸念があって。あと、鱒二のお父さんもすごくいい味を出してるんですが、こちらも映画には出ていないです」

──今回、脚本のみならず監督にも抜擢された経緯は? 「実は第1稿を書いたあと、一度伊坂先生に映画化をお断りされているんです。映画化が多くなりすぎていたので、『ゴールデンスランバー』以降はしばらく映画化をやめるというのが先生の意向でした。もちろん残念だな......という思いはありましたが、脚本を書かせてもらったこと自体が僕にとってはすごくいい経験だったので、諦めはついていたんです。でもそれから数年後、社会人になり映像を撮ったりしていた時に、奥山プロデューサーから"もう一回やるから"って連絡をいただいて。本当は脚本だけだったんですが、映像を観て頂いて、じゃあ"監督もやってみるか"って、ギャンブルしてくださった。そのおかげで今日に至っています」

──初めてのメジャー映画ということで、撮影中などに苦労したことは? 「すべてが楽しかった!というのが正直な気持ちです。こういう映画を撮りたいよねって、お酒を飲みながら映画談義をしていた自分が、目指していたそのステージに立てたことが本当に光栄で。もちろんその反面、辛かったこともあって、一番はやっぱり責任やプレッシャーの大きさです。先輩俳優さんたちを、こんなに一堂に演出する機会ってけっこう珍しいと思うんですが、それがましてや初めての現場でしたから、緊張はしなかったけど、大変ではありました」

fujii_130522_0024.jpg



──俳優陣とはどんな風にコミュニケーションをとっていたんですか? 「新人だからといって陰に隠れているようなのも嫌だし、でも身の丈以上の態度で"僕は監督だ!"なんて虚勢を張るのもおかしい。できるだけ自然にいたいと思ったんです。撮影の合間はムラジュンさんとかにいじられたりしつつも、でも監督としてセットに入ったら絶対にその流れではやらない。自分がやりたいことははっきりと明確に伝えるようにしました。それは監督をやらせてもらえることになった時に、自分の中で決めていたことです。そんな自分を先輩たちは温かく見守ってくれているというのもすごく感じました。ただ、相当ビビってはいたんです。だって、撮影がクランクアップした翌日、バタンと倒れてそのまま病院行きになりましたから。撮影中は絶対に体調崩せないし、アドレナリンがずっと出続けているような状態でしたので」

──今回の経験で、一番大きかったのは? 「スタッフの中でも僕は年齢が下から3番目ぐらい。皆さん僕よりも経験がある方ばかりで。特にカメラマンの福本淳さんは大ベテランで、自分は福本さんが撮った映画を観て育ったといっても過言ではないくらいでした。そんな福本さんに、やりたいことを全部共有させてもらって、ご飯を食べながらとことん話し合ったり。もちろん福本さんだけでなく、たくさんの先輩方からいろんな話を聞かせてもらい、勉強させてもらって、自分自身すごく成長できたと感じています」

──ところで、『オー!ファーザー』では4人のお父さんたちの名言がたくさん出てきますが、監督ご自身にも心に残っているお父さんの言葉はありますか? 「すごく自由な家庭で、父親からは"この5つだけ守れば何をやってもいい"って言われて育ちました。"嘘をつくな""女に手を出すな""金を借りるな"、そして"やられたら100倍にして返せ"。半沢直樹みたいですが、実際に僕の父親も銀行員で昔、融資課にいたんです。しかも剣道の日本チャンピオンだったりして、ほんとに半沢直樹を絵に描いたような人で(笑)。あともうひとつ、今でも一番大事にしているのが"常に謙虚でいなさい"っていう教え。監督って別に偉いわけじゃなくて、ただの作品の一部だから、そういうことを勘違いしないまま、おじいちゃんになっても映画を撮れていたらいいなって思います。すごく尊敬しているいい親父です」

──映画の世界に入ったきっかけは? 「高校1年生の終わりぐらい。友達がみんな高校辞めちゃったりしてるなかで、"将来やりたいことある?藤井ちゃん"って聞かれたことがあったんです。で、"ないんだよね、サラリーマンじゃないの?"とか言ってた時に、唐突に"じゃあこれから一日一個何かをやろう"って仲間内で決めたんです。だいたいの人は禁●......じゃなくて、一日一善とかを掲げて結局三日坊主になったりしていて。僕は1日1本映画を観るって宣言して、高校2年の始業式から大学の入学式まで2年間、ほんとに休まずやったんです。受験中もずっと映画観てましたし。気づいたら、自分は映画の業界の人になるんだって思い込んでいました」

──その前から映画は好きだったんですか? 「いえ、単純にそれが楽そうだったからなんです(笑)。たまたまそこにDVDかVHSがあったのかなぁ。あと、高校の時にもらっていたお小遣いが、ちょうど毎日映画を借りるのにぴったりの額だったんですよね」

──その頃に観たなかで、特に心に残っている作品は? 「当時は、"誰と観るか"が一番大事で。友達と観る時は、ジム・キャリーの映画ばっかり。みんなで共有できて、みんなで笑えるから。他にもベン・スティラーとかアダム・サンドラーとか、アメリカのラブコメみたいなのを男の子たちで集まって観ていましたね。でも、ひとりで観る映画は邦画が多かったです。行定勲さん&岩井俊二さん世代でしたから。特に岩井さんの映像にはすごくトラウマを感じて、"なんていい映画なんだ!"ってすごく刺激を受けましたね。ただ、大学に入ってからは、岩井俊二好きとはなかなか言えませんでした。"はい、出た!"って感じでいじめられるので(笑)。あと、高校時代に『私立探偵 濱マイク』っていうドラマがあったんですが、ああいう映像にもすごく刺激を受けました。僕の大学の教授が脚本をやっていたんですが」

──岩井監督&行定監督の作品で特に好きなのは? 「岩井さんは『スワロウテイル』。あの世界観って、すごく衝撃で。今でも観ますし、すべてが好きなんです。たぶん初めて観たのは中学時代だったと思うんですが、高校時代に改めて見直した時に、なんて面白い映画なんだろうと思いましたね。とにかく世界観が好きで。どこでもないどこかで、人が生きて行く生き様。ああいう映画を撮りたいなって、今でも思います。行定さんは『きょうのできごと a day on the planet』です。今のインディーズの監督たちにも、ああいうすごく淡々とした感じの作品を撮る人たちが増えてきていますが、その先駆けが行定さんだったんじゃないかって思うんです。"きょうってどこまでなんだろうね"っていうフックから、よくあそこまで話を広げられるなって。すごく繊細な映画で、大好きです。大学時代は好きって言えませんでしたが(笑)」

──最近のベストは? 「高校生とかの多感な時期は、日本人の映画の方が共感しやすいので邦画が多かったですが、今では映画館に観に行くのは専ら洋画です。最近観たなかだと、ずば抜けて『わたしはロランス』ですね。これは嫉妬しました。168分とすごく長い作品なんですが、ただただ圧巻でしたね。監督は25歳のカナダ人なんですが、あんな25歳がいるなんて嫌だなぁって思います。顔ももうほんとにイケメンだし」

──藤井監督も素敵ですよ? 「僕は、中国の武器職人に似てるって、よく言われます」

──最後の質問です! 好きな映画館はどこですか? 「TOHOシネマズシャンテ(旧シネシャンテ)と、新宿シネマカリテです。映画監督としての考え方をすごく変えてくれるような映画が、シネシャンテでばかりやっているんですよ! 実は2012年に、ベスト映画が3本全部変わったんです。それまでは『エターナル・サンシャイン』というずば抜けた1位があって、『バタフライ・エフェクト』『トゥルーマン・ショー』の2本がすごく好きな映画でした。でも2012年に第3位が『わたしを離さないで』に、第2位が『ブルーバレンタイン』、第1位が『BIUTIFUL ビューティフル』に変わりました。そのうちの2本、『ブルーバレンタイン』と『BIUTIFUL ビューティフル』は両方ともシネシャンテで観た映画です。あと、新宿シネマカリテもすごく好きな映画が多いのでよく行きます。ちなみに、個人的に一番恩義がある映画館はオーディトリウム渋谷。よく映画を流してもらっています」
(写真・文/根本美保子)


ohfather_main.jpg



『オー!ファーザー』
5月24日(土)より角川シネマ新宿ほか全国ロードショー

監督・脚本:藤井道人
出演:岡田将生、忽那汐里、佐野史郎、河原雅彦、宮川大輔、村上淳、柄本明ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
2014/日本映画/103分

公式サイト:http://www.oh-father.com
©2014吉本興業

生まれた時から4人の父親+1人の母親とひとつ屋根の下で暮らす、普通の高校生の由紀夫(岡田将生)。個性的な4人の親父がウザかったり、クラスメイトの女の子にまとわりつかれたりしつつも平穏で楽しい日々を送っていたある日。サラリーマン風の男の鞄がすり替えられたのを目撃したことで、思わぬ事件に巻き込まれていきます。

« 前の記事「映画が好きです。」記事一覧次の記事 »

藤井道人(ふじい・みちひと)

1986年東京都生まれ。大学在学中より映像ディレクターとして活動を開始。2012年、長編インディーズ映画『けむりの街の、より善き未来は』を脚本・監督。未完のインディーズ映画とそれに関わった人々を描いた『7S』(監督・脚本)、島田荘司原作の青春ミステリー『幻肢』(監督・脚本)が2014年公開予定

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム