連載
二階堂武尊のB★CINEMA ブッダものけぞる映画笑論

第3回 「死」と友だちになれる! クセになる癒しのファンタジー。・・・『ブンミおじさんの森』

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誰しも寝静まった深夜。
一人でベッドに横たわっているとき、自分が死ぬことに猛烈な恐怖感を感じたことはありませんか。
死ぬということは、心臓と脳が停止して、親しい人々と二度と会うこともできないばかりか、自分の大切にしていた思い出すらも「無」へと帰してしまう・・・。

いやいや、どうもどうも。いきなりシリアスに始まりましたが、「死」はあなたにも必ずやってくるコワーいモンダイです。
私なんぞ、毎日、死がコワくてありませんぜ。
子どもの頃から、死んだらどうなるのだろう、なんていつも考えてきました。
天国はあるのか、地獄はあるのか、三途の川とはどんなものか、などなど。

前置きが長くなりましたが、この地味な映画は、そんな私の死への強迫観念をやさしく解きほぐし、包容してくれる、とびっきり優しく温かい映画でごぜえますだ。
ハリウッドから遠く離れたタイの地で撮り収められたこの美しい作品は、なんと、2010年のカンヌ国際映画祭最高賞(パルムドール)受賞してまっせ。審査委員長のティム・バートンが「見たこともないファンタジー」と絶賛であります。

さて、コイツは見た人は少ないと思いますので、軽くストーリーを言いますと、話は単純。タイの森で養蜂業を営むブンミおじさんが森の洞窟で死ぬまでのお話です。
腎臓を患い死の間際まで追いつめられたブンミおじさんのもとに、19年前に死んだ妻のフエイの亡霊と、その6年後に行方不明になり、いまは猿の精霊となったブンソンが帰ってくる。
死に際のブンミは彼らと出会い、癒され、そして、死を受け入れる・・・。

映像はタイの森林を舞台にして、精霊や水の神などが登場して、現実と幻影が交錯。私たちの「生」の時間軸をゆるゆると崩壊させていく。はっと気がつくと、スクリーンを見つめる私たちの隣に、私たちの死が寄り添って、一緒に映像を見つめているような不思議な気分になってきます。見ているうちに、心は落ち着き、潤っていくことをあなたも体感できるでしょう。

輪廻転生、カルマなど仏教的な考え方もたくさん盛り込まれていますが、難しい理屈はナシ。ブンミおじさんや精霊たちとともに、しばしこの映像詩に耽溺してみたらいかがでしょうか。ラストのエンディング曲には感涙デス。
監督はタイの新進気鋭作家・アピチャッポン。
フィルムを通じて、前世と未来を往来する旅。おすすめですぜ。

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二階堂武尊(にかいどう・たける)

1964年生まれ。大手出版社勤務の後、独立。近著に『29歳からはじめる ロックンロール般若心経』(フォレスト出版)、『ぎゅーたん!「十牛図」で学ぶプチ悟りの旅』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。リストラ、転職や借金、それらにともなうメンタルな病理などに、長いサラリーマン体験を生かしたユニークな対処法を提案。高校生から中高年まで幅広いファンの支持を得る。一見、ふざけているのかと思われる作品群の奥に、仏教的な癒しや悟りの感覚を漂わす。ブルースとジャズを愛する陽気なオッサン。無類の犬好きでもある。
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