第101回 『ホワイト・バッファロー』
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『ホワイト・バッファロー』
1977年・アメリカ・97分
監督/J・リー・トンプソン
脚本/リチャード・セール
出演/チャールズ・ブロンソン、ウィル・サンプソン、ジャック・ウォーデン、キム・ノヴァクほか
原題『THE WHITE BUFFALO』
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あけましておめでとうございます! 今年も年始恒例の干支にちなんだ生物パニック映画からスタートしていきましょう。
牛の暴れる映画と言えば、国際的大スターのチャールズ・ブロンソンが主役のハリウッド大作『ホワイト・バッファロー』。筆者が子供の頃、化粧品のテレビCMで「う~ん、マンダム」と顎を撫でるブロンソンの真似(演出・大林宣彦)が学校で流行った。CMを知らない世代には、『北斗の拳』の原作者・武論尊のペンネーム由来と説明しておこう。
物語は、西部開拓時代に実在した人物が夢の共演を果たし、人間の乱獲で絶滅に瀕したバッファロー(正式名称アメリカバイソン)の怨念が怪物化したような白い野牛が大暴れする、空前絶後の巨大生物パニック・ウエスタンだ。
1874年9月、ゴールドラッシュに沸くコロラド州の金鉱の町に、かつて先住民撲滅とバッファロー狩りで勇名を轟かせたワイルド・ビル・ヒコック(チャールズ・ブロンソン)が戻ってくる。ワイルド・ビル・ヒコックとは、若干二十歳でネブラスカ州の保安官を務め、数々の無法者を二丁拳銃の早撃ちで葬った西部史に残るレジェンド級のガンマンだ。
この土地で様々な敵を作り、姿をくらませていたヒコックが危険を冒してまで戻ってきた理由は、夜な夜な悪夢に出る噂の白い野牛(いわゆるアルビノ)を仕留めるためだった。無敵のヒコックは「恐怖」という感情を抱く自分が許せなかったのだ。
時を同じくして、勇猛果敢で知られるスー族の集落が体高3メートル、体重1500キロの巨大なホワイト・バッファローに襲われ多数の死者が出る。クレイジー・ホース(ウィル・サンプソン)は生まれて間もない娘を殺され、取り乱して泣き喚く。族長は「女のように泣くオマエに勇者を名乗る資格はない」と、一番の勇者に与えられる「クレイジー・ホース」の称号を彼から取り上げ、「ワーム(イモムシ)」という屈辱的な蔑称に格下げする。ホワイト・バッファローを討ち果たして初めて娘は昇天し、名前も帰ってくると族長から諭されたクレイジー・ホースは、復讐の雄叫びを上げ出陣する。
クレイジー・ホースもまた実在したネイティブ・アメリカンの英雄で、1876年にカスター将軍率いる第七騎兵隊を全滅させたリトルビッグホーンの戦いが有名だ。扮したのは名作『カッコーの巣の上で』(75年)で大ブレイクした、実際に先住民族出身のウィル・サンプソン。「クレイジー・ホースは彼じゃなければ俺は出ない」と、ブロンソン御指名によるキャスティングだった。
ヒコックは再会した旧友チャーリー(名脇役ジャック・ウォーデン)を助っ人に、ホワイト・バッファローが目撃された雪山へ向かう。すると、一足先にクレイジー・ホースが「キャホッホッホ~!」と地元の部族と1対15で交戦中。出演している先住民たちは俳優ではなく、サンプソンのために喜んで出てくれた本物の方々。無謀と呆れるヒコックは「3対15だ」と加勢し、共闘して15人を全滅させる。
互いに勇気を讃えて別れるが、今度はヒコックたちが町の無法者に襲撃され大ピンチ。ここで毛皮を被って狼に擬態していたクレイジー・ホースが奇襲! あっという間に弓矢で一味を全滅させる。律義なネイティブ・アメリカンの恩返しだ。ヒコックはクレイジー・ホースを「兄弟」と呼び、自分たちが寝泊まりする洞窟で暖と食糧を与える。彼を利用しようとしていたヒコックに、先住民の勇者を敬う気持ちが芽生える。ロケ地は標高4200メートルのコロラド山地。4メートルの積雪と薄い酸素で出演者たちはダウンし、全員が酸素吸入しながら過酷な撮影に臨んだという。
やがて両雄は本音をぶつけ合う。ホワイト・バッファローが娘の仇で、土地を奪う白人と死ぬまで戦う意志を見せるクレイジー・ホースに、ヒコックは「お前を死なせたくない」と投降を促す。クレイジー・ホースが「なぜだ」と問い掛けると、ヒコックは「兄弟だから。友だからだ」(泣ける)。2人は両手をガシッと組む。
夜が明けるとクレイジー・ホースはいなくなっている。慌てて後を追う2人は、やがて谷あいに開けた雪の回廊に出る。そこはヒコックが悪夢で見たホワイト・バッファローが現れる場所とそっくり同じだ。ヒコックは全集中し、辺りにピーンと緊張感が張り詰める。岩陰にいる狼はクレイジー・ホースだ。すると奥の森から「ギュオオ~ン!」とホワイト・バッファローが咆哮しながら突進してくる。回廊のど真ん中に仁王立ちして銃を構えるヒコック。だが、なんと引き金が凍結していて引けない! 万事休す! 決着のネタバレは避けておこう。
超大物プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスは、本作の他に『キングコング』(76年)、『オルカ』(77年)といった巨大生物モノを立て続けに製作した。パンフレットにある水野晴郎の解説文には、その2作品と比べて「特撮の評価はともかくとして、私はこの『ホワイト・バッファロー』が一番面白かった」と記されている。貶しているのか誉めているのか(笑)。CGがない当時、実物大のホワイト・バッファローが機械仕掛けで作られたのだが、猪突猛進するだけで水野先生の感じたように評判は芳しくなかった。しかし、それを補って余りあるのが、チャールズ・ブロンソンとウィル・サンプソンの古き良き「漢気」コラボなのだ。
そして、今年は奇しくもチャールズ・ブロンソン生誕100年を迎える。戦いの壮絶な決着を知りたい読者の皆さん、ぜひ『ホワイト・バッファロー』を観て丑年とブロンソンをダブルで祝おう! ラストの、ヒコック、クレイジー・ホース、チャーリーによる三者三様の別れシーンも、70年代の男臭さに痺れること必至!
(文/天野ミチヒロ)