NHK杯戦史上、最も有名な一手に学ぶ待ち駒戦法

『NHK将棋講座』の「船江恒平の 終盤は筋よく指そう」。5月の特集は「玉は包むように寄せよ」です。NHK杯戦史上、最も有名な一手と言われている局面を課題図に取り上げて解説します。

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■待ち駒は卑怯(ひきょう)ではなく立派な戦略です

私が幼少期に通っていた加古川の将棋センターは現在、経営を師匠の井上九段が引き継ぎ、少しスタイルを変えて週末に営業しています。お客様は子どもからお年寄りまでと幅広いですね。
将棋道場でたまに耳にするのが「待ち駒は卑怯なり」です。もちろん卑怯ではなく、立派な作戦です。
待ち駒とは相手の玉の退路に駒を置いて、逃げ道を塞ぐことを言います。
格言に言い換えれば「玉は包むように寄せよ」になります。待ち駒の手筋を使って挟撃態勢を築くことができれば、自然と玉は包むように寄せよの形になるのです。
私の余談が毎回長くなって触れることができない課題図をご覧ください。

今回はNHK杯戦史上、最も有名と言われている一手です。ピンときた方もいるかもしれません。実はこれも待ち駒。それも極めつけの妙手でした。

■解説者が絶叫したNHK杯戦史上に残る▲5二銀の絶妙手

これは羽生善治三冠と加藤一二三九段の対局です(第38回NHK杯)。当時、羽生三冠はまだ五段の若手でした。
先手は△2九歩成の開き王手を見せられているので、ここで決め手を出さなければ厳しくなります。
後手は左辺が広い。そこで、課題図から▲5二銀と打ったのが妙手でした。解説者だった米長邦雄永世棋聖が「おー、やった!」と声を出されたことでも有名です。
放置していれば▲1四角から、△5二同金としても▲1四角△4二玉▲4一金までの詰みとなります。
実戦は▲5二銀に△4二玉と寄りましたが、▲6一銀不成が▲3二金からの詰めろで、以下先手の勝ちとなりました。
■『NHK将棋講座』2017年5月号より

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