青嵐は「あおあらし」か「せいらん」か

俳句集団「いつき組」組長、藍生俳句会会員の夏井(なつい)いつきさんの連載「音で楽しむ季語」。兼題に「青嵐(あおあらし)」を採り上げ、強い風を感じさせる句を紹介しています。

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番組第三週は、音を感じさせる季語や表現について考察しています。いきなり本題から逸それて恐縮ですが、「青嵐(あおあらし)」の例句を探しているうちに、古い歳時記には傍題「青嵐(せいらん)」が採録されていないことに気づきました。採録どころか、昭和八年『俳諧(はいかい)歳時記』(改造社)では実作注意として「必ず『あをあらし』と訓(よ)むべし。『セイラン』や、など音読すべからず」と固く禁じています。それ以降の歳時記も、おおむねそれに倣(なら)っているようです。
昭和三十四年『俳句歳時記』(平凡社)の「青嵐」の解説は山本健吉(やまもと・けんきち)さんによるものですが、やはり「『あおあらし』と訓んで感じがよく伝わるので、せいらんと音読させた例は今まではあまり見ない」としつつ、例句に一句のみ「せいらん」と読むに違いない句を取り上げています。
よくぞ来し今青嵐につゝまれて

高浜虚子(たかはま・きょし)


昭和23年6月、札幌市で開催された「全道ホトトギス俳句大会」に出席する途中、立ち寄ったカルルス温泉にて吟行した折の句なのだそうです。句会の席でしょうか、「季題との関係で『青嵐』をどのように読むかで、虚子とその息子の年尾(としお)との間でちょっとした論争があった」とのエピソードを、カルルス町在住の日野安信さんが登別(のぼりべつ)市の議会だよりで語っておられます。論争の詳細には触れていませんが、きっと「あおあらし」と読むか「せいらん」と読むかの議論だったに違いありません。
語感に対する個人的感想ではありますが、中七(なかしち)字余りとなる音数の問題だけではなく、雄大な北海道の地に立った爽快な感覚をS音で始まる「せいらん」という硬く涼やかな響きで表現したかったのではないかと感じました。
■『NHK俳句』2017年5月号より

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