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本嫌いを変えたのは、兄からの一言だった!?------アノヒトの読書遍歴:前野健太さん(前篇)
シンガーソングライターの前野健太さん。自ら立ち上げたレーベル「romance records」からアルバム『ロマンスカー』をリリースし、2007年にデビュー。ライブを開催するなど精力的に音楽活動を続けるほか、現在はCMや舞台出演、映画の主演を果たすなどして活躍の幅を広げています。文芸誌ではエッセイを連載しており、今年3月には初のエッセイ集となる『百年後』を出版。文章の書き手としても期待されています。そんな前野さん、実は昔は本が嫌いだったとか。ではどのように本と出会い、虜になったのか。そして前野さんが紡ぎ出す、詩のような文章のルーツが一体どこからきているのか、お話を伺いました。
------今は文章を書くお仕事もされていますが、前野さんが本と出会ったきっかけはどんなものだったのでしょうか?
「父が本に携わる仕事をしていたので、子どもの頃から父の部屋には本がたくさんあったんです。でもそれがほこりっぽくて嫌で、本が嫌いでした(笑)。なので僕は一切本を読まず、そのせいか国語や読書感想文も苦手で、成績も悪かったのを覚えています。しかし、17歳の頃、突然兄が文庫本を20冊ほどどさっと僕に投げつけて『お前、本読まないと馬鹿になるぞ』って。その頃、僕は兄を崇拝していたので、無理やりに読み始めました(笑)」
------そのときに読んだ本は覚えていますか?
「吉本ばななさんや谷崎潤一郎の本があった気がします。しかし当時は読解力がなくて、まったく理解できませんでした。でも、ヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』だけは、無理やり読んでいたら、なんとか読み終えたときに次の巻が読みたくなったんです。それで古本屋に本を探しに行ったら、古本屋の雰囲気が好きなって。今度は古本屋に行くようになると、だんだん本が好きになっていきましたね」
------本が好きになってからは、どういった本を読まれましたか?
「最初は、ガロ系の漫画がすごく好きで、そのなかでも上村一夫さんの本はよく探しました。あとは詩集ですね。詩人の山之口貘さんや黒田三郎さんの作品を読んで現代詩にのめり込みました。いろいろな現代詩が紹介されている古い詩集を読んだりして、『詩ってめちゃくちゃ面白い』と感じるようになったんです。それがきっかけで、自分でも詩を書くようになりました」
------本の影響があって、ご自身でも詩を書かれるようになったのですね。最近の前野さんの作詞活動に影響を与えた作品はありますか?
「チャールズ・ブコウスキーという人の『ワインの染みがついたノートからの断片』という未収録・未公開作品集に書いてある詩なんかは、短いけどグサグサきますね。他にも、友川カズキさんや、友人の坂口恭平の書くものや歌には、ものすごく刺激を受けています」
------前野さんは今年3月にエッセイ集を発売されましたが、おすすめのエッセイ本はありますか?
「漫画家の近藤聡乃さんの『ニューヨークで考え中』という漫画エッセイです。これは、漫画家で美術家である近藤さんがニューヨークに滞在しているなかでの日常を描いたものなんです。ニューヨークでの風景や情景、人との付き合い方などを描いていくんですけど、僕が東京で生活することで感じた寂しさとか、ちょっとしたうれしさとか、ふと『あれ、この感情知ってるな』という場面や歌心に出会わせてくれます。知らず知らずのうちにポロッと涙がこぼれるような、今まで感じたことのないような感覚になる、新しい漫画エッセイです。ぱらっぱらっと読めるんですが、心のすごく深いところをそーっと撫ででくれるような本で、おすすめです」
------ありがとうございます。後編では、前野さんがもっとも衝撃を受けた本について紹介します。どうぞお楽しみに。
<プロフィール>
前野健太 まえのけんた/埼玉県入間市出身。シンガーソングライター。2007年自ら立ち上げたレーベル「romance records」からアルバム『ロマンスカー』をリリースしデビュー。以降、音楽活動と並行して、映画『ライブテープ』(2009)、『トーキョードリフター』(2011)、『変態だ』(2016)に出演し主演を務める。2016年には初のラジオレギュラー番組「前野健太のラジオ100年後」が放送開始となる。2017年には初舞台「なむはむだはむ」に参加し、3月には初のエッセイとなる『百年後』を発売した。シンガーソングライター、俳優、文章の書き手として、さまざまな場で活躍し続けている。