女流棋士受難のシリーズ? タイトルホルダー同士の戦い

左/謝 依旻女流名人、右/張 栩NHK杯 撮影:小松士郎
第64回NHK杯2回戦 第13局(2016年10月30日放送)は謝 依旻(しぇい・いみん)女流名人と張 栩(ちょう・う)NHK杯というタイトルホルダー同士の戦いとなった。松浦孝仁さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。

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全く、腹が立ってしようがない。今回のNHK杯戦には女流棋士が4名出場し、1回戦では3名が男性棋士を打ち破った。これはもう珍しくも何ともない。そして2回戦。藤沢里菜三段は山下敬吾九段に、鈴木歩七段は余正麒七段にそれぞれ討ち取られた。そして本局だ。女流陣最後の砦(とりで)の謝依旻女流本因坊(対局時は女流本因坊のため、本文は女流本因坊で表記)の相手は張栩NHK杯(肩書は2016年10月20日現在)。
張と山下はともに一時代を築き、今でも打倒井山裕太棋聖を期待されているベテランだ。余は秋の王座戦で初の番碁出場を果たした21歳の昇り竜。よくもまあ、こんな難敵と組み合わせてくれたものだ!
しかし、藤沢も鈴木も謝もそんなふうに思っているようなら、そもそもNHK杯戦に名を連ねることはなかっただろう。それに、よくよく考えればNHK杯戦に出てくる棋士で楽に勝てる相手なんているはずもない。しかし、やっぱり謝には勝ち残ってほしいなあ。

張栩NHK杯はボルダリングに熱中しているそうな。岩などを何の道具も使わずに登っていくスポーツだ。自身の工夫によってゴールにたどりついたときが、たまらなく気持ちいいのだとか。そういえば前期NHK杯戦を制したあとに「腕立て伏せに毎晩取り組んでいます」と話していたが、このためだったのかな。
白4の目外しは、張の碁によく出てくる。得意の構えと言っていい。謝依旻女流本因坊は研究してきたのか、黒15までテンポよく打ち進める。黒17で素直に応じるなら1図の1だ。白は2から4と頭を出して戦いになる公算が大きい。 
謝は黒17から21と中を手厚く構える方針を採用したが、白22に黒23と、突如左上に手を戻した。
「少し意外です。2図の黒1とハネるほうが大きそう。そこで白2と切れば一般的です。実戦の謝さんは左辺に厚みを蓄え、左上隅も与えない頑張った打ち方を選びました」と解説の蘇耀国九段。

白は24を決めたあと、白Aとハネていくのも好点。黒Bに白Cとなれば、左下の黒二子が孤立する。張は冷静に白26へ。彼らしい足早な展開だ。白30のハイも、落ち着いたものだ。
※投了までの記譜と観戦記はテキストに掲載しています。
■『NHK囲碁講座』2017年1月号より

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