三浦しをんさん、短歌に挑戦中

左/穂村弘さん、右/三浦しをんさん 撮影:成清徹也
歌人・穂村弘さんがゲストを迎えて対談する『NHK短歌』の連載「穂村 弘、対して談じる。」。今回のゲストは、直木賞受賞作の『まほろ駅前多田便利軒』をはじめ、本屋大賞を受賞した『舟を編む』など、数々のヒット作を世に送り出している作家の三浦しをんさん。三浦さんは最近、短歌や俳句にも挑戦しているといいます。

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■世界を単純化する「物語」

穂村 小説家は、物語やキャラクターを上手に面白く作る人と、言葉がすごく切れる人の二パターンに分かれるように思うのですが、三浦さんは両方イケるからすごいですね。
三浦 とんでもないです。デビューしたての数年は、まだ感性がきらめいていたのか、今よりは若干、詩的な表現もできていた気がするのですが、だんだん感性が鈍磨してきて、最近は言葉のキレがめっきり……。そうなると、思考が「物語」やその構造に向かいがちになってしまうんです。
穂村 小説家が年を取ると長大な時代ものを書きはじめたりするのは、そのあたりに理由があるのかな。
三浦 おそらく物語には、世界を単純化してしまう作用もあるんです。そして、それは表層を掬(すく)うことと紙一重で、「まとめ」的なベクトルなんですよね。そうすると短歌のように、短い言葉で多面的に何かを浮き彫りにしていくような、言葉を研磨するような方向に頭が働かなくなってしまう。うまくバランスを取りたいなという思いがあり、数年前から短歌や俳句に挑戦しはじめました。
穂村 『エフーディ』という同人誌で発表されていますね。
三浦 プロの方たちに教えてもらえるなんて楽しそうだなと、歌人や俳人からなる「エフーディの会」に参加してます。それは、そこで作っている同人誌です。読売新聞の記者である金巻有美さんが発起人で、メンバーは歌人の石川美南さん、川野里子さん、小島なおさん、平岡直子さん、歌人で小説家の東直子さん、俳人の神野紗希さん、髙柳克弘さん、詩人の平田俊子さんなど。毎月交互に、歌会と句会を開催しています。
穂村 名前の由来が面白いですね。三浦さんの短歌〈繰り出して あふれるよりはやく エフーディはティッシュの小人 濡れる夜の友〉から採られたとか。
三浦 エフーディは、ティッシュの箱に住むイギリスの小人・妖精なんだそうです。以前、翻訳家の岸本佐知子さんと辞書の話をしていた時に教えてもらいました。
穂村 ティッシュを抜くと、すぐ次の一枚がしゅっと出てくる。あれをやってくれているのがエフーディであると。この歌は、自分の涙や鼻水があふれるより早く、頑張ってエフーディがティッシュを繰り出しているイメージですね。でも、妖精にしては新しいですよね、ティッシュ誕生以降の生まれなわけだから(笑)。
■『NHK短歌』2017年1月号より

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