石倉昇九段の教え方──32年目の囲碁教室
- 撮影・小松士郎
32年前に渋谷でスタートした石倉昇九段の囲碁教室は、5年ほど前に自由が丘に場所を移し、さらに活況を呈している。2005年に東京大学で始まった囲碁授業の講師としてだけでなく、全国各所での活動が注目される石倉九段。教室の様子をのぞくと、その人気の秘密が明らかに…!
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■すごく楽しい!
囲碁教室は数多くあるが、人気の高さでは石倉昇九段の教室が頭ひとつ抜けていると言えよう。32年前に渋谷で15人からスタートした教室は5年ほど前に「東急セミナーBE 自由が丘」に移り、現在は200人程度の会員がいるそうだ。半数は女性で、レベルによって4つのクラスに分かれ、20代から90代まで幅広い層の会員の方が毎週通っている。
渋谷時代から20年以上通い続けているという方も多く、入会した理由もさまざまだが、皆さん口をそろえるのが、「すごく楽しい!」という一言だ。その人気の理由は、すぐに分かることになる。
■人気の秘密は「繰り返し」
この日のクラスは、前半の1時間が石倉九段による講義、後半の1時間が会員同士による対局というスケジュール。教室をのぞいてみると、開始30分前から座席の7割が埋まり、碁盤に石を並べながら談笑したり、熱心に囲碁の本を読んだりと、講義を待ち切れない様子だ。
そして石倉九段が登場すると、70人を超える受講者が少しも目をそらすことなく講義に聞き入る。講義は、石倉九段とアシスタントによって、テレビの解説のようなやり取りで進められる。「中国流の構えに相手が入ってきたら、どうしますか?」と石倉九段が問いかけ、アシスタントの「根拠を奪って攻める?」という答えに石倉九段が「その前に、まずは喜びましょう」と応じると、場内は大爆笑。
レベルの高い講義内容にもかかわらず、級位者から有段者まで一体となって講義を楽しんでいる様子に驚かされる。講義に引き込まれる秘密は「徹底的な繰り返し」だ。
■標語の刷り込み
4年前から教室に通い始めたという戸室敏正さんは、「覚えることが苦手でしたが、同じことを繰り返し教えてくれるので、だんだん覚えることができるように」なり、当時4級だったのがあっという間に四段になったそうだ。
繰り返して覚えれば、級位者も有段者も関係ない。アシスタントが、難しそうな定石手順を少し間違えただけで、場内が笑いに包まれるのもうなずける。
講義の中で石倉九段が最も意識しているのが「標語の刷り込み」だ。石倉九段と言えば、「入れてください、入れません」など初心者向けの標語で有名だが、級位者から有段者向けのものも30以上あると言う。それを毎回徹底的に繰り返すことが、実力向上の秘けつだったのだ。
講義のあとは、会員同士で対局が行われる。対局の途中でも石倉九段やアシスタントがアドバイスをするなど、勝ち負けよりも楽しむこと、そして強くなることを目的としていることが分かる。
■石倉九段の話
講義は毎回、基本の形や標語を繰り返し丁寧に教えています。そこに実戦の変化を少しずつ混ぜていく、という感じです。「繰り返し」がコツです。講義で使用している標語は、以前「NHK囲碁講座」の講師を務めたときに作ったのがきっかけです。
東京大学でも講義を行っていますが、やり方は同じです。やさしいことを繰り返して、標語を刷り込む。囲碁用語はなるべく使わないようにしています。難しいという先入観があると、続きません。大学の講義では、毎回アンケート用紙に学生が感想を書いてくれるのですが、教え過ぎたかな、と感じた日は「難しい」と書かれているのです。逆にやさしいことを繰り返した日には「面白かった」という感想になるわけです。
今後は、“囲碁の伝道師”という形で(笑)囲碁の敷居を低くする活動を幅広く行っていきたいです。
囲碁は、打っても見ても楽しい日本の伝統文化です。「時間があればやりたい」という存在として、囲碁とつきあっていただきたいですね。
■『NHK囲碁講座』2016年12月号より
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■すごく楽しい!
囲碁教室は数多くあるが、人気の高さでは石倉昇九段の教室が頭ひとつ抜けていると言えよう。32年前に渋谷で15人からスタートした教室は5年ほど前に「東急セミナーBE 自由が丘」に移り、現在は200人程度の会員がいるそうだ。半数は女性で、レベルによって4つのクラスに分かれ、20代から90代まで幅広い層の会員の方が毎週通っている。
渋谷時代から20年以上通い続けているという方も多く、入会した理由もさまざまだが、皆さん口をそろえるのが、「すごく楽しい!」という一言だ。その人気の理由は、すぐに分かることになる。
■人気の秘密は「繰り返し」
この日のクラスは、前半の1時間が石倉九段による講義、後半の1時間が会員同士による対局というスケジュール。教室をのぞいてみると、開始30分前から座席の7割が埋まり、碁盤に石を並べながら談笑したり、熱心に囲碁の本を読んだりと、講義を待ち切れない様子だ。
そして石倉九段が登場すると、70人を超える受講者が少しも目をそらすことなく講義に聞き入る。講義は、石倉九段とアシスタントによって、テレビの解説のようなやり取りで進められる。「中国流の構えに相手が入ってきたら、どうしますか?」と石倉九段が問いかけ、アシスタントの「根拠を奪って攻める?」という答えに石倉九段が「その前に、まずは喜びましょう」と応じると、場内は大爆笑。
レベルの高い講義内容にもかかわらず、級位者から有段者まで一体となって講義を楽しんでいる様子に驚かされる。講義に引き込まれる秘密は「徹底的な繰り返し」だ。
■標語の刷り込み
4年前から教室に通い始めたという戸室敏正さんは、「覚えることが苦手でしたが、同じことを繰り返し教えてくれるので、だんだん覚えることができるように」なり、当時4級だったのがあっという間に四段になったそうだ。
繰り返して覚えれば、級位者も有段者も関係ない。アシスタントが、難しそうな定石手順を少し間違えただけで、場内が笑いに包まれるのもうなずける。
講義の中で石倉九段が最も意識しているのが「標語の刷り込み」だ。石倉九段と言えば、「入れてください、入れません」など初心者向けの標語で有名だが、級位者から有段者向けのものも30以上あると言う。それを毎回徹底的に繰り返すことが、実力向上の秘けつだったのだ。
講義のあとは、会員同士で対局が行われる。対局の途中でも石倉九段やアシスタントがアドバイスをするなど、勝ち負けよりも楽しむこと、そして強くなることを目的としていることが分かる。
■石倉九段の話
講義は毎回、基本の形や標語を繰り返し丁寧に教えています。そこに実戦の変化を少しずつ混ぜていく、という感じです。「繰り返し」がコツです。講義で使用している標語は、以前「NHK囲碁講座」の講師を務めたときに作ったのがきっかけです。
東京大学でも講義を行っていますが、やり方は同じです。やさしいことを繰り返して、標語を刷り込む。囲碁用語はなるべく使わないようにしています。難しいという先入観があると、続きません。大学の講義では、毎回アンケート用紙に学生が感想を書いてくれるのですが、教え過ぎたかな、と感じた日は「難しい」と書かれているのです。逆にやさしいことを繰り返した日には「面白かった」という感想になるわけです。
今後は、“囲碁の伝道師”という形で(笑)囲碁の敷居を低くする活動を幅広く行っていきたいです。
囲碁は、打っても見ても楽しい日本の伝統文化です。「時間があればやりたい」という存在として、囲碁とつきあっていただきたいですね。
■『NHK囲碁講座』2016年12月号より
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