藤井システムの真相

写真/河井邦彦
11月号に登場した木村一基(きむら・かずき)八段が、藤井猛(ふじい・たけし)九段に、藤井システム誕生のきっかけを聞きました。

* * *





■Q/プロも感心する構想がどうして浮かぶのか不思議でなりません。きっかけやコツなどを教えてください。

A/藤井システムは最後の勝負手でした。当時は振り飛車が絶滅の危機に迫られていましたから。大げさに聞こえるかもしれませんが、私も棋士生命が断たれるかどうかの瀬戸際でした。必要に迫られてしかたなくというのが正直な理由です。
振り飛車の魅力のひとつに美濃囲いの堅さがありますが、居玉で仕掛ける藤井システムはそれを放棄するんですから。まして居玉で戦うなんて、よほどの追い込まれ方ですよ。居玉で戦わざるをえなかったというのが藤井システムの真相です。実際に危機感や本気度は、ほかの棋士よりかなり高く考えていたと思います。芸術家の要素が少ないと答えたのは、それが理由です。結果として高評価をいただける棋譜が生まれたのは、精いっぱい頑張ったご褒美だと受け止めています。

■Q/NHK杯戦の中でいちばんの会心譜をご紹介ください

A/NHK杯は苦戦気味ですが、五段当時の山崎君(隆之八段)との終局の場面は、今でも鮮明に覚えています。ずっと冷静に指してきましたが、最終手の△7六金(1図)だけは渾身(こんしん)の力を振り絞って着手しました。将棋盤が割れんばかりの勢いだったはずです。

この将棋は私が広島で竜王を失冠したばかりの対局でした。竜王戦のBS中継に広島出身で当時、若手棋士だった山崎君が出演していました。終盤で「これはもう(藤井竜王が)ダメですね」と簡単に言い放ったと聞きます。放送を実家で見ていた私の親父が激怒したと、あとで知りました。我が息子を必死の思いで応援していたところに、若手棋士の軽いもの言いが気に入らなかったのでしょう。
私は山崎君がプロ棋士として正しいジャッジをしたことも理解していますし、人柄やキャラもよく知っています。誤解のないように言いますが、彼に罪はありません。ですが、フィニッシュの金打ちは、親父の悔しさを山崎君にぶつける気持ちのこもった着手でした。親父に捧(ささ)げた会心の一手として印象に残っています。
■『NHK将棋講座』2016年12月号より

NHKテキストVIEW

NHK 将棋講座 2016年 12 月号 [雑誌]
『NHK 将棋講座 2016年 12 月号 [雑誌]』
NHK出版
545円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> LawsonHMV

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム