“千駄ヶ谷の受け師” 木村一基八段、「本当は攻めるのが好き」

写真/河井邦彦
今回登場するのは、稲葉陽(いなば・あきら)八段からバトンを受けた木村一基(きむら・かずき)八段。「千駄ヶ谷の受け師」と呼ばれますが、今は受け将棋にとって受難の時代だそう。自身の棋風からプライベートまで、木村八段に自らを語っていただきました。

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■本当は攻めるのが好き

私の将棋は受けが強いと評していただくことが多いです。攻め駒を責める展開になることが多く、それが受けのイメージにつながっているのかなと思っています。とても名誉なことではありますが、実は攻めることのほうが好きなんです。
三段時代はポカが多い将棋でした。勝つために慎重になっていき、いつしか手堅く指す棋風になったのかもしれません。ただ、最近は攻めの技術が進んだことで、受け切って勝つことが困難な時代になりました。受けていても結局は反撃に転じることになり、最後は積極的な指し手が要求されます。
将棋の質が変わってきたので、受けが好きな棋士にとっては受難の時代になりましたね。ですので私も最近は受け重視の手をほとんど指していないはずです。バランスでいえば攻め6分、受け4分ぐらいでしょうか。ただ、状況によっては辛抱することが大事です。攻めるにせよ受けるにせよ、常に意思の通った積極的な手を心がけています。そういう手が出ているときは調子がいいと言えるでしょう。
豊島さん(将之七段) と指した1図(第57期王位戦挑戦者決定戦) が印象深いです。1図から▲6三角成と角を切ったのが決断の一手でした。成否は分かりませんが、最後までうまく指せたのではないかと思います。
つい最近、大ポカを出して負けました。自分の思い込みを正しいと判断して軽率に指してしまったのが原因です。人間だし年も取りましたので、ミスが出るのはしかたがないこと。とはいえ、今後は気をつけます。
盤外では鉄道が好きです。高校時代は友人と、格安キップを使って、普通列車を乗り継ぐ旅をしました。初回は大分県の別府まで行き、折り返しで京都〜新潟〜横川ルートの旅。翌年は青森から北海道に渡り、釧路まで行きました。出張で全国各地に行くと、駅まで鉄道を見にいくことも多いです。ここ最近で廃線になった路線も多く、青春時代の思い出が消えていくのが残念でなりません。
結婚して子どもができてからは、遊ぶ機会がめっきり減りました。現在は子ども中心の生活です。妻も働いていますので、子どもの送り迎えはできるかぎり、私も手伝うようにしています。
勝負の世界に身を置くものとして、ある程度は負けることを受け入れる必要があります。ですが、どんなに苦しくなったとしても、簡単に諦めてはいけません。
最近は不利になったときの頑張り方が難しくなってきました。優勢の将棋を勝ち切る技術が上がり、気力的にも逆転させるのが大変です。そういった状況でも、いい意味で最後まで往生際が悪く、息長く頑張っていけたらと思っています。
■『NHK将棋講座』2016年11月号より

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