「少年時代は恥ずかしがり屋だった」 平幹二朗が仮面の下に隠した意外な素顔

役者は一日にしてならず
『役者は一日にしてならず』
春日 太一
小学館
1,620円(税込)
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 2016年10月22日に、82歳で生涯を終えた俳優の平幹二朗さん。狂気に憑かれた人物や悪役を演じることに定評があり、大河ドラマ『武田信玄』(1988年)で演じた信玄の父・信虎や、蜷川幸雄さん演出のギリシャ悲劇『王女メディア』で演じた主人公の姿は、観た人の心に大きな爪痕を残しました。 

 そんな平さんが自身の役者人生を語ったインタビューを収録しているのが、今回ご紹介する書籍『役者は一日にしてならず』。著者の春日太一さんは、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)などの著作で知られる時代劇研究家で、本書では、平さんはじめ16人のベテラン俳優に、役者を目指したきっかけや、知られざる撮影秘話を直撃しています。

 本書によれば、平さんは幼少期から恥ずかしがり屋で、集団の中に埋没してしまうような子供だったと言います。

 「凄く内気な子供でした。たとえば、学校の授業で答えが分かっていても手を挙げられない。手を挙げて指名されるとドキドキしちゃうんです。知らない人の前に出られませんでしたし、人の前に出て話すとか、目立つことが凄く苦手な子供でした。それは今でも残っていて、人前で話をすることができないんです。ですから、講演会とかは絶対に受けません。自分の言葉で自分を語ることが怖いんです」(本書より)

 内気な性格の平さんが、俳優のような人前に出る仕事に就いたのは不思議な気もしますが、本人の語るところによれば、役者は自分自身を見せるのではなく、役を見せる仕事。「平幹二朗」として振舞うと恥ずかしくてとてもできないことでも、演じる役の「仮面」に隠れることで、大胆に感情を表現することができるのだとか。

 「僕は自分では自分の言葉で内面を外に出すことができません。そこに役という仮面があると自分の内面が自由に動き出すんです。仮面があることで安心して、悪い衝動も毒々しい衝動も、悲しみも、そういうものが全てマグマのように噴き出してくるんです」(本書より)

 本書では、その"マグマ"を引き出した演出家・蜷川さんとの出会いも語られていますが、演劇への情熱はもとより、自身の内面や生い立ちに至るまで余すところなく語ったロングインタビューである本書は、名優・平幹二朗さんの仮面の下に隠されていた素顔を伝える、貴重な一冊と言えるでしょう。

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