阿久津主税八段、1勝15敗の羽生善治三冠との戦いを自ら綴る

左/阿久津主税八段、右/羽生善治三冠 撮影:河井邦彦
第66回NHK杯戦2回戦第1局は、阿久津主税(あくつ・ちから)八段(先手)と、羽生善治(はぶ・よしはる)三冠の対局でした。名誉NHK杯の称号を持つ羽生三冠に、自ら「負けすぎかな」と感じているという阿久津八段が、自戦記で136手の戦いを振り返ります。


* * *


■1勝15敗

これは私と羽生三冠の対戦成績である。いくら一線級でずっと活躍している相手とはいえ、さすがに負けすぎかなと思う。
今回は対局前に自戦記を頼んでいただいたが、これまでの対戦成績のことや、書くことが得意ではないことを考えてしまい、引き受けるかどうか迷った。
棋士になって17年目。若干マンネリ化してきた気がする自分に変化をつけたいという気持ちもあり、引き受けることにした。
書くと決めたら迷いはない。初心に戻って対局を楽しもう。そういう思いで対局に臨んだ。


■作戦の立て方

対局前の作戦の立て方は、棋士それぞれでかなり違う。入念に準備をして、先後どちらでもしっかりと考える人。相手を問わずに自分の得意戦法をぶつける職人気質(かたぎ)な人。その日のひらめきを大事にする人もいる。
以前の自分は流行形を選んだり、気分で戦型を決めることが多かった。しかし最近は、興味のある形や相手の棋風などを合わせながら作戦を立てる感じだ。
本局は先手番なら矢倉か横歩取り。後手番なら横歩取りか、ゲンをかついで1回戦で採用した中飛車の予定だった。


■主導権を握られたか

先手番では矢倉が予定だったと書いたが、盤上はすでに自分の描いた理想とはかけ離れてしまった。先攻していくつもりが、7筋の歩交換から後手に主導権を握られてしまった感じだ。
3図から積極的に行くなら、▲4六角から角交換を目指す順もあった。ただ先手が▲7六歩と守る展開になると、後手だけ歩を持つことになり不満だ。
本譜は▲6五歩と角を追い、▲4六角から▲4八銀(4図)と立て直した。守勢に立つのは想定外だが、気持ちを切り替えて手厚い陣形を目指した。

※阿久津八段は2勝目を上げられたのでしょうか。投了までの記譜と自戦記はテキストに掲載しています。
■『NHK将棋講座』2016年10月号より

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