松本清張、森茉莉、三島由紀夫...文化人たちに愛された喫茶店とは? 

東京渋カフェ地図 (散歩の達人POCKET)
『東京渋カフェ地図 (散歩の達人POCKET)』
交通新聞社
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 打ち合わせや商談をする人、本を読む人、食事をする人、物思いに耽る人、休息する人......。さまざま人びとが訪れ、思い思いの過ごし方をする喫茶店。古くから東京に息づく喫茶店のなかには、多くの著名人たちが訪れ、時を過ごしてきた歴史を刻む一軒も。

 東京にある名物喫茶店76軒を紹介した、本書『東京渋カフェ地図』には、文化人たちが愛し、今尚その雰囲気を感じ取ることのできる喫茶店も紹介されています。

 たとえば、1911年創業、現存する東京最古の喫茶店 "銀座カフェーパウリスタ"。他店で、30銭で販売するコーヒーを5銭で提供したことにより、瞬く間に話題となり菊池寛、徳田秋声、芥川龍之介、獅子文六ら三田文学の文士たちも足繁く通ったのだそう。また、まだ女性の地位が高くない時代に、2階を女性専用にしたことから、女性解放運動の旗振り役・平塚らいてうをはじめ、多くの女性のこころをも掴んできたのだといいます。
 
 西荻窪にある"こけし屋"も、古くから文化人たちに愛されてきた一軒。昭和30年代、石神井に住んでいたミステリー作家の巨匠・松本清張は、毎週のように開店と同時にこけし屋を訪れ、店奥の席でランチをとり、そのまま執筆活動へ。そしてまた夕食を済ませてから、帰っていったというほど入り浸っていたようです。

「スタッフは、着物で筆を走らせ、編集者が原稿を取りにくる様子を見て作家だと気づいたものの、当時、作家の顔などあまり知ることのなかった時代。ある日『点と線』がベストセラーとなり清張の顔を知ったときに驚いたという」(本書より)

 さらに、世田谷代田にある"世田谷邪宗門"は、作家や映画監督、俳優などの常連客も通う一軒ですが、そのなかのひとりが作家でエッセイストの森茉莉。店内に入ってすぐ左にある窓際の席で紅茶を飲みながら、執筆をしていたのだといいます。

 あるいは、御茶ノ水にある"画廊喫茶ミロ"は、ミロの本物の絵がある喫茶店としても知られますが、扉を開けて左手のカウンター前には、窓のほうを仰ぐ案配で、いつも三島由紀夫が座り、出版社や新聞社の対応をしていたのだそう。店内が改装された現在も、席の配置は当時のまま。三島由紀夫の特等席も健在だといいます。

 文学作品の生み出された場所、文化の発信基地の役割をも果たしてきた喫茶店の数々。街の喧噪に疲れたときには、ぶらりと立ち寄り、未だ残る文化の薫りのなかに身を置いてみてはいかがでしょうか。

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