NHK杯優勝経験者どうしの闘い

左/依田紀基九段、右/三村智保九段 撮影:小松士郎
第64回NHK杯1回戦 第15局は依田紀基(よだ・のりもと)九段(黒)と三村智保(みむら・ともやす)九段(白)の重鎮対決となった。内藤由起子さんの観戦記より、序盤の展開を紹介する。

* * *

依田紀基九段は3連覇を含む5回、三村智保九段は1回。NHK杯優勝経験のある重鎮どうしが、早くも1回戦で激突した。
安藤武夫七段門下の依田は、若いころ、合宿などで藤沢秀行名誉棋聖からも薫陶を受けており、藤沢門下の三村とはともに修業した仲だ。
二人とも子どもたちの育成にも尽力し、塾・道場を開いているという共通点がある。
この日、依田は特に気合いが入っていた。対局前の控え室では、厳しい顔をしてひと言もしゃべらない。大先輩の依田が話さないと、三村も口を開くタイミングを失う。控え室は静かだった。
両者の対戦成績は9勝6敗で、依田が勝ち越している。
解説のマイケル・レドモンド九段は「依田さんは形勢判断がよく、戦いを一つ一つ片づけて細かい碁に持っていくでしょう。三村さんはどっしり構えて戦いに備えると思います」と予想した。

■同じ定石、再び

黒番の依田紀基九段は、黒3のケンカ小目から、黒5とすぐにカカった。

白8のカカリに黒は9とハサみ、15とアテる定石を選んだ。「これはシチョウがいいときの打ち方です」とマイケル・レドモンド九段。白16で1図の白1と逃げたとき、黒2とアテて4とノビることができる。白5と切って7とカカえたときのシチョウのことだ。

シチョウの悪い白は16とツギ、18とハネた。「この形、依田先生と以前打っていますよね。忘れていました」と三村智保九段。
調べてみると、2年ほど前に打たれた早碁にあった。そのときは黒7が32の大ゲイマになっているだけで、黒19まで全く同じ進行だ。依田は「俺もさっぱり忘れているから」と応じた。
白16では2図の白1とハネるのもある。黒4なら白5のアテを決める。黒4で5のノビなら白4の切りに回る。

黒21から25としっかり打ったのには、依田の棋風が表れている。
三村は白30のボウシから32とツケた。白34は3図の白1と切るのが形だが、黒2のアテから4とカカえられると、二の矢が継げない。白34、36とノビてツキ出た。

※投了までの記譜と観戦記はテキストに掲載しています。
■『NHK囲碁講座』2016年9月号より

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