永遠平和を実現するための条件とは
イマヌエル・カントは晩年の著書『永遠平和のために』の中で、永遠平和を実現するために必要なの条件を提示しています。津田塾大学教授の萱野稔人(かやの・としひと)さんが解説します。
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さて、『永遠平和のために』の具体的な内容についてお話ししていきますが、頁を開いた人はまず、この本が通常の哲学書とは大きく異なる構成になっていることにおそらく面食らうでしょう。『永遠平和のために』は以下のような章立てで構成されています。
第一章 国家間に永遠の平和をもたらすための六項目の予備条項
第二章 国家間における永遠平和のための確定条項
付録
「条項」という見慣れない言葉が見出しに並んでいますが、これは、カントが当時の平和条約の書き方にならってこの本を構成したためで、意味合いとしては「条件」のようなものです。先ほどお話ししたように、この本がバーゼル平和条約を意識したものであることが、このことからもわかります。
それではまず、第一章に書かれた六つの「予備条項」を順にみていきましょう。なお、以下の「予備条項」の小見出しは、光文社古典新訳文庫の小見出しによります。
■一「戦争原因の排除」
ここでカントは、一時しのぎの付け焼き刃的な平和条約を批判し、将来の戦争の要因となるものをすべて排除してこそ平和条約は意味をもつ、と述べています。この部分には、先ほどのバーゼル平和条約に対する批判が込められています。
■二「国家を物件にすることの禁止」
独立した国家は、人間の集まりである道徳的な人格として存在しているのであって、誰かの所有物であってはならない、と主張しているのがこの項です。カントが生まれたプロイセンは強大な軍を持ち、隣国ポーランドの領土をロシア、オーストリアとともに三度にわたって分割支配してきました。それが戦争をもたらす要因となっている状況を目の当たりにしていたからこそ、カントはこの条項を入れたのです。
■三「常備軍の廃止」
軍を持つと、周辺国をたえず戦争の脅威にさらすことになります。放っておくとお互いに他国よりも優位に立とうとする意識が生まれ、限りない軍備拡張競争がはじまり、やがては国家の負担を減らすために、先制攻撃をしかけるようになるので、常備軍は持たない方がよい、とここでは述べています。
■四「軍事国債の禁止」
戦争を行うためには莫大な資金が必要となるため、国家は国債を発行して国内外から軍事資金を集めようとするが、それは禁止すべきだ、とカントは言っています。すぐに返さなくてもよい国債を利用して軍備を拡張していくと、結局は財政的な破綻(はたん)を招くことにもなるからです。
■五「内政干渉の禁止」
ここでカントは「いかなる国も他国の体制や統治に、暴力をもって干渉してはならない」と主張しています。しかし、内政干渉を完全否定しているわけではなく、「ある国が国内の不統一で二つに分裂して、それぞれが独立の国家と自称して、全体の国家を支配しようとする場合には事情が異なる」とも述べています。この部分は、近年の人道的軍事介入の是非を考える際のヒントとしても読むことができそうです。
■六「卑劣な敵対行為の禁止」
具体的には、暗殺者や毒殺者を使って敵国の指導者を殺したり、一度結んだ降伏条約を破棄したりすることなどを指します。そうした卑劣な手段を用いて戦争に勝利した場合は、戦争終結後にその国の人びとの信頼を得られなくなるので、永遠平和を実現することは難しくなる、とカントは述べています。
■『NHK100分de名著 カント 永遠平和のために』より
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さて、『永遠平和のために』の具体的な内容についてお話ししていきますが、頁を開いた人はまず、この本が通常の哲学書とは大きく異なる構成になっていることにおそらく面食らうでしょう。『永遠平和のために』は以下のような章立てで構成されています。
第一章 国家間に永遠の平和をもたらすための六項目の予備条項
第二章 国家間における永遠平和のための確定条項
付録
「条項」という見慣れない言葉が見出しに並んでいますが、これは、カントが当時の平和条約の書き方にならってこの本を構成したためで、意味合いとしては「条件」のようなものです。先ほどお話ししたように、この本がバーゼル平和条約を意識したものであることが、このことからもわかります。
それではまず、第一章に書かれた六つの「予備条項」を順にみていきましょう。なお、以下の「予備条項」の小見出しは、光文社古典新訳文庫の小見出しによります。
■一「戦争原因の排除」
ここでカントは、一時しのぎの付け焼き刃的な平和条約を批判し、将来の戦争の要因となるものをすべて排除してこそ平和条約は意味をもつ、と述べています。この部分には、先ほどのバーゼル平和条約に対する批判が込められています。
■二「国家を物件にすることの禁止」
独立した国家は、人間の集まりである道徳的な人格として存在しているのであって、誰かの所有物であってはならない、と主張しているのがこの項です。カントが生まれたプロイセンは強大な軍を持ち、隣国ポーランドの領土をロシア、オーストリアとともに三度にわたって分割支配してきました。それが戦争をもたらす要因となっている状況を目の当たりにしていたからこそ、カントはこの条項を入れたのです。
■三「常備軍の廃止」
軍を持つと、周辺国をたえず戦争の脅威にさらすことになります。放っておくとお互いに他国よりも優位に立とうとする意識が生まれ、限りない軍備拡張競争がはじまり、やがては国家の負担を減らすために、先制攻撃をしかけるようになるので、常備軍は持たない方がよい、とここでは述べています。
■四「軍事国債の禁止」
戦争を行うためには莫大な資金が必要となるため、国家は国債を発行して国内外から軍事資金を集めようとするが、それは禁止すべきだ、とカントは言っています。すぐに返さなくてもよい国債を利用して軍備を拡張していくと、結局は財政的な破綻(はたん)を招くことにもなるからです。
■五「内政干渉の禁止」
ここでカントは「いかなる国も他国の体制や統治に、暴力をもって干渉してはならない」と主張しています。しかし、内政干渉を完全否定しているわけではなく、「ある国が国内の不統一で二つに分裂して、それぞれが独立の国家と自称して、全体の国家を支配しようとする場合には事情が異なる」とも述べています。この部分は、近年の人道的軍事介入の是非を考える際のヒントとしても読むことができそうです。
■六「卑劣な敵対行為の禁止」
具体的には、暗殺者や毒殺者を使って敵国の指導者を殺したり、一度結んだ降伏条約を破棄したりすることなどを指します。そうした卑劣な手段を用いて戦争に勝利した場合は、戦争終結後にその国の人びとの信頼を得られなくなるので、永遠平和を実現することは難しくなる、とカントは述べています。
■『NHK100分de名著 カント 永遠平和のために』より
- 『カント『永遠平和のために』 2016年8月 (100分 de 名著)』
- NHK出版 / 566円(税込)
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