「すごいな! ええ手や!」 井上慶太九段、将棋指導の極意

写真:大西二士男
どうしたら子どもは将棋を好きになり、強くなるのか。門下に新鋭の若手棋士を数多く輩出し、指導力の高さに定評のある井上慶太九段。主宰する加古川将棋倶楽部・こども教室の一日を取材すると、その理由が見えてきた。

* * *

「ええ形やな」「ほー、なかなかええ手や」。
教室は主に実戦形式。子どもの棋力ごとに分かれ、手合が付けられる。井上九段は休むことなく声をかけ続ける。まず褒めてから子どもの横に座り、目線を同じ高さにする。
中級クラスの子が、次の手に迷っていた。井上九段が「王手や。どっちかで取るしかないんや」と言うと「どっちか分からん」。しかしそこで正解は示さず「そうね、考えてみようか」。子どもは長考した。井上九段は待つが、子どもは答えが見つからない。そろそろ正解手順を教えるのだろうか? すると、「そうねー、よう考える子は賢いねんな」。じっくり考えること自体を褒める。
子どもが上級者の場合はかける言葉が異なる。指し手のアドバイスはしつつも、「駒台にきれいに駒並べて」。対局終了後には「駒を初型に並べてよー」。今後、大人に交じって将棋の勉強を続ける上級者にとって大事な、対局マナーを教えているのだ。
子どもが初心者・初級者の場合、井上九段はまず、指し手の意味を知ろうとする。「ああそうしたかったんか。なるほどな」。そして、「それならこうする手もあったな」と、あくまで別候補のように最善手を伝える。
人数の都合で手合がつかない子がいた。井上九段は簡単な詰将棋を出す。不正解が続いたが、「あ、そこですかー、こうしたら? な、あかんな。そ、あかんて気づくところがよかったわ」「違うのすぐ分かるから偉い」。ようやく正解にたどりつくとひときわ大きな声で「そうや!」。そして「よしもう1回やってみようか」。正解手順を再び並べさせた。
褒める、待つ、考えさせる、復習させる。これが井上流将棋指導のキーワードである。
■『NHK将棋講座』2016年7月号より

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