室田伊緒女流二段、「いつかは飛び抜けた存在に」

今回登場するのは室田伊緒女流二段。師匠の杉本昌隆七段と一緒に出演したテレビ将棋講座を覚えている方もいらっしゃることでしょう。現在は棋士会の副会長を務めています。そんな室田女流二段に自らを語っていただきました。

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3歳下の弟がいます。弟がいなかったら、将棋を始めていなかったかもしれません。弟が3か月早く習い始めていたので初めは勝てなかったですけれども、追いついてからは負けたくなかったです。抜きつ抜かれつ、同じペースで昇級していました。当時小5の私のほうが漢字が多い定跡書を読める分、序盤は詳しかったですけど、ずっといい勝負でしたね。ふたりとも負けず嫌いだから、家で指しているとお互い待ったを繰り返してケンカになるので、指さなくなりました。
ライバルは弟だけ。いまはみんな「敵」ですね。あ、対局中だけですよ。感想戦になればもう終わり。村田さん(智穂女流二段)は尊敬しています。後輩とも仲よしです。将棋は相手がいないと指せないですし、負けても自分のせいですからね。
憧れの将棋は久保先生(利明九段)の将棋です。さばきはもちろんですが、何を指せばいいのかさっぱり分からないような局面から粘っての逆転勝ちにも憧れます。
大山先生(康晴十五世名人)の棋譜は、夏休みに集中して並べました。清水さん(市代女流六段)と初めて対戦したときの将棋が大山先生の対局と全く同じだったんです。師匠(杉本昌隆七段) に棋譜を見ていただいたときに「前例があるのを知っていたの?」と聞かれたのですが、知らなかったです。あとで並べてみて、早く並べておけばよかったなと思いました。
四間飛車を始めたのは、同じ支部に通っていた同い年の山口真子ちゃん(後に女流アマ名人)が四間飛車を指していて「真子ちゃんと同じのをやる!」と言ったからです。形も何も知りませんでした。
中学生のときに将棋をやめたいと思ったことがあります。でも天童(中学生選抜選手権)には行きたいと言っていました。同世代の女の子がたくさん集まるのが楽しみだったんです。当時は携帯電話を持っていなかったので中学選抜で知り合った子とは文通をしていました。千尋(井道千尋女流初段)も文通仲間でした。でもふだんの土日はずっと大会に出ていたから、将棋をやめて友達と遊びたかったんだと思います。プロになってからは「もう終わりだ」と思うことはあるけど、やめたいとは思ったことはありません。
これまでいろいろな先生が答えている「芸術家」「研究者」「勝負師」の割合は、勝負師5、研究者3、芸術家2くらいです。本当は将棋の内容を突き詰めたいけど、まず結果を出して、次の対局でいい将棋を指せればと思っています。やっぱりプロなので、勝たなければならないです。
対局中は意識的にポーカーフェイスを装って、感情を顔に出さないようにしています。「あっ」と思っても、ピクリともしない。動かないようにしています。不利な局面でも、終盤にもう一度チャンスが来ると思って指しています。だから勝負師です。でも、母は見ていて分かるそうです。あと、将棋以外の勝負事は苦手ですね。
デビューしたころ、村田さんとの対局はいつも同じ戦型になったので、序盤は時間を使わずにどんどん指していました。いまは人数も増えたし、いろいろな戦型を指すので、あのころが懐かしいです。いつかは飛び抜けた存在になりたいけど、まず関西の女流棋士同士で切磋琢磨(せっさたくま)して強くなりたいです。
■『NHK将棋講座』連載2016年5月号より

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