煩悩が多くても「念仏を称えよう」とした時点で救われる──親鸞の教え

浄土真宗を開いた親鸞の没後二十数年の後に成立した書物『歎異抄』。親鸞を直接知る唯円という人物によって、親鸞の語録とその解釈、さらに異端の説への批判を述べるものとしてまとめられました。
『歎異抄』(蓮如本)の構成は、まず序が置かれ、第一条から第十条まで進みます。つづいて、第十条に付随した文章と考えるか、あるいは独立したものと考えるか見解の分かれる中序を挟み、第十一条から第十八条へ。そして後序と流罪記録が付され、最後に蓮如の奥書が置かれます。
前半の第一条から第十条が、親鸞の教えや語録をまとめた「語録(師訓)篇」で、後半の第十一条から第十八条が、『歎異抄』の本体ともいえる「歎異(異義)篇」── すなわち、親鸞の教えを自分勝手に解釈する向きを歎き、正しい理解を説く、唯円の「解釈」となります。
本稿では序、そして第一条のポイントを押さえます。解説してくださるのは、如来寺住職・相愛大学教授の釈徹宗(しゃく・てっしゅう)さんです。

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では、いよいよ『歎異抄』の中身を見ていきましょう。各条の核心となる部分を抜粋してご説明していきます。まず序の重要なポイントはここです。
まつたく自見(じけん)の覚語(かくご)をもつて、他力(たりき)の宗旨(しゅうし)を乱(みだ)ることなかれ。
(自分勝手な考えにとらわれて、本願他力の教えのかなめを思い誤ることがあってはなりません。)
「他力」は重要なキーワードです。さきほど「易行」という言葉を紹介しましたが、「易行=他力の仏道」と考えてください。対になるのは、「難行=自力の仏道」です。
仏道を「易行」と「難行」に分けたのは、「第二の釈迦」とも呼ばれたインドの龍樹(りゅうじゅ/ナーガールジュナ)です。そして、「他力」と「自力」に分けたのが、中国の高僧である曇鸞(どんらん)です。本来、仏教のメインストリームは「難行=修行して悟りを開く」であり、出家して厳しい修行を積んで悟りを開くべし、と考えられていました。最初期の仏典に「易行」が出てこないわけではありませんが、主役の「難行」に対して脇役でしかありませんでした。その主役と脇役の関係をひっくり返したのが法然です。
宗教を「つながり型」「悟り型」「救い型」の三タイプに分けてみましょう。神道などは、つながり型宗教でしょう。厳密な教義よりも共同体をつなぐところに重心があります。ユダヤ教も、ユダヤ民族をつなぐ役割を果たしていますね。つながり型の面をもっています。
悟り型というのは仏教に代表されるような、自分自身の心と体をトレーニングして別の人格へ生まれ変わるところに主眼をもったタイプの宗教です。救い型は、キリスト教などのように、神や超越的存在が救ってくれるという宗教です。
この分類を敷衍(ふえん)しますと、法然は、本来は悟り型の宗教である仏教を救い型の宗教に読みかえたと言えそうです。仏教の再構築です。それだけに誤解も生みやすい。だから、『歎異抄』の序には「他力の宗旨を乱ることなかれ」という注意書きが付されているのです。
次に第一条の冒頭を見ましょう。
弥陀(みだ)の誓願(せいがん)不思議にたすけられまゐらせて、往生(おうじょう)をばとぐるなりと信じて念仏申さんとおもひたつこころのおこるとき、すなはち摂取不捨(せっしゅふしゃ)の利益(りやく)にあづけしめたまふなり。
(阿弥陀仏の誓願の不可思議なはたらきにお救いいただいて、必ず浄土に往生するのであると信じて、念仏を称えようという思いがおこるとき、ただちに阿弥陀仏は、その光明の中に摂〈おさ〉め取って決して捨てないという利益をお与えくださるのです。)
阿弥陀仏の「誓願」、つまり願いや誓いとは、すべての人々を救いたいというものです。詳しくは『無量寿経(むりょうじゅきょう)』という経典にありますが、阿弥陀仏の四十八の願いのうち、最も重要なのが十八番目の「浄土に生まれたいと願って念仏する人をすべて救います」という誓いです。その願いの力によって、すべての人々が浄土に生まれることができるのです。
しかも『歎異抄』では、念仏を称えようという心が起こった時点で、もう救われるのだとありますから、いかに唯円が内面を重視していたかがわかります。「こんこんと煩悩(ぼんのう)が湧きあがる人でも大丈夫。仏様の願いにわが身をお任せすれば救われるのです」と第一条で確認しているわけです。この条は『歎異抄』全体の性格をコンパクトに言い表すものとなっています。
■『NHK100分de名著 歎異抄』より

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