春の訪れで動く心情──兼題「春めく」を詠む

桜のつぼみが色づき始める季節です。「春めく」という兼題を詠んだ句を、「玉藻(たまも)」主宰の星野高士(ほしの・たかし)さんが解説します。

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今回の兼題「春めく」は実体のない季題です。その分、自分の心情が表れやすい季題と言えます。他の季題よりも、心で感じることに重きを置くべき季題となります。
春めきてものの果てなる空の色

飯田蛇笏(いいだ・だこつ)


「春めく」のような季題の場合、「秋めく」や「冬めく」としても季題が動かないか(成り立ってしまわないか)、よくよく吟味する必要があります。この句の場合は、どの季節を選んでもそれなりの句になりそうです。しかし、春の空の柔かな色合いや空気感が、「ものの果て」というどこか儚(はかな)げな表現と、やはり一番合っていると私は思います。
春めくと覚えつゝ読み耽(ふけ)るかな

星野立子(ほしの・たつこ)


名句の条件に、調べの良さが挙げられます。この句は読んだ時の音の柔らかさが、春らしいです。「読書の秋」という言葉がありますから、秋のほうが読み耽るのにはよい季節のようですが、この句を読んだ時だけは春がいいような気がします。
春めくといふ言(こと)の葉をくりかへし

阿部みどり女(あべ・みどりじょ)


春めくという言葉には優しい響きがあるようです。口に出して心地良い言葉だと思います。実際の季節もまた、繰り返し呟くことでゆっくり深まっていくような気がします。
■『NHK俳句』2016年3月号より

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